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MEJE PROCESS · ファンダム・アクティビティ (7 章)

世界観はコンテンツではなく生産システムである

MEJE Works · 章 5

世界観はコンテンツではなく生産システムである

ひとつの原典から文章・絵・映像・3Dが散らばらないようにする方法

「世界観を作ってください」という依頼の行き着く先は、たいてい分厚い設定資料集です。丹念に作られ、発表会議で感嘆を受け、引き出しにしまわれます。半年後、新しい担当者はその文書の存在を知らず、外注制作会社は要約版の要約版を渡され、新曲のミュージックビデオは、設定資料集と微妙に食い違います。世界観がコンテンツ(完成した文書)として扱われる限り、この結末は繰り返されます。

ファンダム・アクティビティにおける世界観の定義は異なります。世界観は読む文書ではなく、複数の人と複数のメディアが同じ世界を作り続けられるようにする生産システムです。今回は、そのシステムの作動方式を扱います。


1. 設定資料集は完成した瞬間から古びる

設定資料集とライブラリの違いは第2回で扱いましたが、生産の観点から、もう一度語る価値があります。設定資料集は、時点が固定されたスナップショットです。新しいアルバムが出て、新しい象徴が生まれた瞬間から、現実とずれ始めます。一方、ライブラリは見出し語とリンクと履歴で構成された、生きた構造です。新しい情報は新しい見出し語になり、変わった設定は変更履歴とともに更新され、廃棄されたアイデアも「なぜ廃棄されたのか」とともに残ります。

生産システムの第一条件は、これです。参照する原典が常に最新であり、常にひとつであること。原典が複数のバージョンに散らばった瞬間、制作物も散らばります。

図1. スナップショットの設定資料集と生きたライブラリ:更新・履歴・廃棄理由

図1. スナップショットの設定資料集と生きたライブラリ:更新・履歴・廃棄理由


2. すべてのメディアは同じ原典を参照する

システムの第二条件は、共通の原典です。ウェブトゥーン作家も、映像チームも、3Dモデラーも、グッズデザイナーも、同じ見出し語と同じルールを参照します。テキストには世界の事実と語り口が、画像には色・素材・光源の規格が、映像にはカメラと動きの文法が、3Dにはモデルとモーションの仕様が、同じ根から生まれます。

こうなれば、異なる制作会社が同時に作業しても、成果物はひとつの世界に見えます。逆に、共通の原典がなければ、各メディアはそれぞれの解釈で世界を少しずつ違って描き、ファンは、そのずれを最も早く見抜きます。トランスメディアの成否は、想像力ではなく参照構造で分かれます。

図2. 共通原典の参照:文章・絵・映像・3D・グッズがひとつの根から生まれる

図2. 共通原典の参照:文章・絵・映像・3D・グッズがひとつの根から生まれる


3. シーズンカプセル:新しく作らず、差し替える

カムバックのたびに世界を新しく作るのは浪費であり、何も変えないのは停滞です。答えは、増分更新です。世界の骨格であるキャラクター、場所、ルール、関係は維持し、新しいアルバムの色・素材・小道具・動き・短いフレーズを「シーズンカプセル」として整理して差し替えます。カプセルが載れば、同じ村の季節が変わるように、世界の表情が変わります。

カプセル方式の利点は、速度と蓄積です。新しいシーズンの制作は、世界全体ではなくカプセルの分だけで済むので速くなり、過去のカプセルは消えることなく、世界の歴史として積み重なります。ファンには、「この世界が私たちの活動とともに歳を重ねていく」という感覚が生まれます。これが、第1回で述べた「同じエンジン、新しいコンテンツカプセル」の生産面です。

図3. シーズンカプセル構造:骨格は維持、季節だけ交換、歴史は蓄積

図3. シーズンカプセル構造:骨格は維持、季節だけ交換、歴史は蓄積


4. ブランド・外注・グローバルのための翻訳装置

生産システムは、内部だけで使われるものではありません。コラボブランドには、世界のトーンと禁止線を収めた1枚のブリーフが出され、外注制作会社には、要約ブリーフから原文の見出し語まで、深さ別の文書が段階的に提供されます。毎回会議で説明していたことを文書体系が代わりに担うので、協業の開始コストが下がります。

グローバル運営では、翻訳ではなくローカライズが可能になります。言語圏別のファンダムの文法とタブーがライブラリに文書化されていれば、どの表現を移し、どの象徴は説明なしに置いておくのかを、チーム全体が一貫して判断できます。そして、すべての言語圏のファンが同じ日付に同じ出来事を体験するよう、スケジュール体系が世界単位で管理されます。

図4. 翻訳装置:1枚のブリーフ、深さ別の文書、言語圏の感受性ガイド

図4. 翻訳装置:1枚のブリーフ、深さ別の文書、言語圏の感受性ガイド


5. AIの調律と人の承認

このシステムの上で、生成AIは増幅器になります。文章では資料の要約と草稿と翻訳を、絵ではパーツの変形と背景のバージョンを、映像ではストーリーボードとカットの変形を、3Dではモデルの補助とテクスチャの変形を、AIが速く作り出します。しかし、どの候補が世界に入るかは、いつも人が決定します。事実検証、ファンダムの感受性、デザインの原型、権利という四つの基準の承認を通過したものだけが、ライブラリに編入されます。

だから、システムには生産ルールがともに刻まれます。すべての成果物に、原資料とプロンプトポリシーとバージョンと承認者が記録され、禁止語と権利タグが生成段階から作動します。AIが速くなるほど、このルールの価値は大きくなります。ルールなき速度は、世界の矛盾を速く増やすだけです。

図5. AIの増幅と人の関門:検証・感受性・原型・権利の四重承認

図5. AIの増幅と人の関門:検証・感受性・原型・権利の四重承認


6. IPの減価償却を遅らせる方法

コンテンツは、消費された瞬間から価値が減っていきます。しかし、システムは逆に動きます。シーズンが繰り返されるほどライブラリは厚くなり、キャラクターガイドは精緻になり、カプセルの制作は速くなり、ファンの反応データは次の判断を助けます。個々のコンテンツの興行は上下しても、それを作り出す能力は右肩上がりです。

これが、先に述べたMUOS(マルチユースがワンソースを強化する構造)の生産面の実体です。メディアを増やす理由は、収益源を増やすためだけではなく、すべての活用が原典に戻ってきて、世界をより強固にするからです。世界観を生産システムとして築いた会社だけが、この複利を享受します。

ところで、この循環の最後の輪、「ファンの反応データが次の判断を助ける」という部分には、誤解が多くあります。データ競争力が、ファンをより多く追跡することから生まれるという誤解です。次回「データはファンを監視しなくても競争力になり得る」で、この問題を正面から扱います。

図6. システムの複利:シーズンが繰り返されるほど速く強固になる生産能力

図6. システムの複利:シーズンが繰り返されるほど速く強固になる生産能力


この連載を書くMEJE WORKSは、アイドルIPの世界観とキャラクター、ファンダム・アクティビティを設計し運営するコンテンツチームです。ファンダム・アクティビティはアイドルIPを「毎日暮らす世界」に変える運営体系であり、その方法をこの連載でひとつずつ開いて見せています。協業検討のための追加資料や訪問ブリーフィングは、いつでもリクエストできます。