MEJE PROCESS · MEJE ストーリーテリング100 (14 章)
第4章 Vaultと執筆のインターフェース — 単一真実供給源と双方向同期
第4章 Vaultと執筆のインターフェース — 単一真実供給源と双方向同期
執筆前には必ずVaultを開きます。習慣でなく原則です。記憶や直感だけで書くと原稿内のK-pop Kが公式世界からずれ、50本目には1本目との一貫性が崩れます。
執筆後は必ずVaultを更新します。圧迫時の話し方、世界の手続き、場所の匂いなど、原稿で初めて発見した情報を原稿だけに置けば次作で使えません。
この二方向がVaultと執筆のインターフェースです。
SSOT:単一真実供給源
ソフトウェア開発のSSOTは、各データの公式版を一つだけにする原則です。二か所に同じ公式データがあれば、いつか不一致になります。
MarvelはWakanda Forever制作時、Black Panther(2018)と通貨単位のずれを修正し、その後正典データを単一Wikiへ統合しました。Forgotten Realmsも第4版から第5版への50年ジャンプで中央Wikiを基準に、新規小説・ルールブックが逆参照しました。
MEJEの100本ではVaultが世界規則、メンバー特性、事件、空間のSSOTです。原稿ではありません。
原稿はVaultを消費し、新データを供給します。「原稿に書いたから世界はこう」ではなく「Vaultが定義したから原稿でこう書く」が正方向です。
例外は発見です。執筆中に未定義の職業慣習が自然に出たなら逸脱でなく発見で、Vaultへ追加すればSSOTに入ります。
Vaultから何を取るか
執筆前に『Librarying』の六見出し、背景・素材・人物・事件・事物・場所を確認します。
- 背景:時間と空間。練習室の広さ、照明色温度、床材、時間帯。未確認なら50本で50の部屋ができます。
- 素材:他作で扱ったか。重複自体でなく、知って選ぶことが重要です。
- 人物:関係、言語習慣、過去事件、身体表現。人物の逸脱を防ぎます。
- 事件:タイムラインと他原稿の矛盾。
- 事物:シンボル、グッズ、道具の公式定義。
- 場所:過去登場時との描写一致。
短いコントなら軽くてもよいですが、一項目を飛ばした矛盾の修復は六項目確認より高くつきます。
原稿からVaultへ — 還流ループ
完成後、既存情報を表現しただけなら更新不要です。新情報なら還流します。
- 新しい世界細部:廊下の掲示板と貼られたメモを場所項目へ。
- 人物発見:ミョンスクが極度の緊張で左親指の爪を噛む習慣をtelling detailとして追加。
- 関係発見:会話から未知の過去が出たら他原稿と照合後、関係記録へ。
- 世界規則発見:活動停止中の外出服装コードなどを規則項目へ。
一作ごとにVaultが豊かになり、次作がそれを使います。MEJE七段階のStage 2がVaultを作り、Stage 7が消費して再び満たします。循環が続けばIPが成長します。
執筆機密原則
内部ファイル名、バージョン番号、手順書名、Libraryingシステムのコード名を公開原稿に出してはいけません。
原稿は世界の産物で、制作報告書ではありません。「手順書v4.2のF基準を満たすため」という文は失敗です。読者は工程を知る必要がありません。
原則は読者経験と知的財産を守ります。制作手順が見えれば世界への窓が塞がり、MEJEの非公開方法論も漏れます。第14章でAI協業とともに再確認します。
並列執筆とVault衝突
複数作家や人とAIが同時に書くと、一方で未来の事件が他方では過去になる危険があります。
Vaultをリアルタイム共有し、新細部を作ったら即記録してチームへ知らせます。共有できなければ開始前のVaultスナップショットを共通基準にし、完了後の統合で衝突を解決します。
バージョン管理と同じです。Vaultがmaster branch、各原稿がbranch、完成後の還流がconflictを解くmergeです。
執筆インターフェースの実際
架空メンバー「ハヌル」のコントを書くとします。
- Vaultで名前、年齢、ポジション、性格、話し方、過去、関係を5分読む。
- 事件・素材記録から日常断面を選び、Coverage Matrixで重複確認。
- 第3章のstakes・視点・形式・分量を設計書へ。
- 設計書を開いて執筆し、細部は記憶でなくVault確認。
- 六大品質基準でQAし合格。
- 新発見をVaultへ追加しMatrix更新。
100本ならこのcycleを100回繰り返します。
Vaultが弱いとき
記録の薄い人物には二択があります。Libraryingを先に補強するか、例外として執筆でVaultを作るか。
後者では新造した細部を即Vaultへ記録し、それ以降はVaultを基準にします。原稿が先行してもSSOTを保てます。
薄い人物はコントまたは4コマから始めます。短形式は発見量と還流負担が小さく、理解が深まったら短編へ移れます。
第4章が伝えるもの
このインターフェースは感覚でなく方法論です。創作を機械化するためでなく、100本を一つの世界にするためです。
一編は単独でも良く、他の99編と並ぶとさらに大きくなければなりません。Vaultが世界を守って育て、執筆がVaultを消費して豊かにします。
次章は100人の主人公の管理、選択原則、Coverage Matrixの実際を扱います。
- 本文 / ライブラリ基盤Storytelling 100講稿 第4回 / 2026-04-30