MEJE PROCESS · MEJE ロアブック制作ワークフロー (15 章)
第13章 整合性・バージョン・イラスト — 生きて動くLOREBOOK
第13章 整合性・バージョン・イラスト — 生きて動くLOREBOOK
D&Dの〈Forgotten Realms〉は、1987年の第1版から2024年の第5版まで、およそ37年の間に五度の大きな改訂を経てきました。その間には約200冊の短編集・小説・キャンペーンモジュールが刊行され、そのたびに新しい人物、都市、事件がLOREBOOKへ積み重なりました。フェイルーンの1372 DRは1492 DRへ移り、都市だったザカラーは新興勢力の本拠になり、魔術師エルミンスターの生涯は新しい作家たちの手で再び語られます。LOREBOOKが生きているという言葉の見本が、この37年の流れです。IPの資料は刊行直後に止まるのではなく、毎四半期・毎年の小さな更新と、5年・10年周期の大きな次版へ続きます。
v1.0刊行後、毎四半期およそ2〜3日の定期更新がLOREBOOKを生かし続けます。
IPが運営される間には新しい短編が出て、キャラクターが更新され、Vaultが増分更新され、多言語版が追加され、一つの標題語の名称が変わります。そのたびにLOREBOOKが変更を追います。毎四半期の小さな更新と、5〜10年に一度の大きな次版が運営の二層です。第一次周期で本の材料が本に変わったなら、運営段階ではその本が時間を追う資料になります。
この章はその運営を扱います。整合性検証、バージョン管理、イラスト発注、AIイラスト方針、更新周期、そして5年運営の姿です。第一次周期の終点から始め、運営が定着する段階までを見ます。
整合性検証 — 毎四半期の小さな点検
運営の第一部が整合性検証です。第11章ではPhase 4として扱いましたが、運営段階では毎四半期、新しい短編の刊行後、キャラクターシート更新後に定期実行します。
三段階で構成されます。第一段階は自動検査です。検収スクリプトがリンク切れ、重複標題語、frontmatterの一致、絶対禁止、名詞grepを一次検査でつかみます。約1〜2時間かかり、毎四半期一回、新短編刊行後一週間以内、新シーズン・大きなIP更新後一か月以内、キャラクターシートv_最終更新後一か月以内に実行します。
第二は手動サンプル検収です。自動検査を通過した後、人が1,500項目から無作為サンプル30〜50件を直接見ます。自動検査がつかめない微妙な部分を直す段階で、約1〜2日かかり、自動検査の時点に合わせて進めます。サンプルは部ごとに均等に配分し(一部あたり約3〜5件)、hub・標準・カード型の比率1:2:7を守り、最近更新された項目を優先します。
最後は統合ビルド検収です。負担が大きいため毎四半期には行わず、第一次周期の刊行直前、次版v2.0刊行直前、シーズン転換や世界観の大きな変動のような大規模IP更新後だけに行います。人がLOREBOOK全体を統合ビルドして一冊として通読し、本が合格線を超えたかを最後に判断します。
三段階が結びつき、運営中に資料がずれないよう多層で点検します。自動検査が毎四半期に一次でつかみ、手動サンプルが微妙な部分を補い、統合ビルドが大きな転換点で本全体を検査します。
Vaultとの同期
LOREBOOK運営の中核はVaultとの同期です。ライブラリング段階の産出物がLOREBOOKの入力なので、Vaultが更新されればLOREBOOKもともに更新されます。二つの形があります。
第一はVaultからLOREBOOKへの一括更新です。Vaultで標題語の名称が変わる、または新しい標題語が登録されると、LOREBOOKがその変更を受けて更新します。
架空IP「○○」を例にします。ライブラリング第二次統合で標題語が「黒孔」から「暗淵」へ変わるとします。ライブラリング第三次再ビルドで新しい.mdが生成され、古い.mdはversion=廃棄で隔離されます。LOREBOOK本文と編集メモの旧用語を新用語へ一括置換します(sed自動化またはObsidian一括変更)。LOREBOOK frontmatterのaliasesに旧用語を登録すれば、読者が旧表記で検索しても新表記の項目を見つけられます。最後に_チェックリスト.mdへ、旧用語本文残存0件、aliases登録100%、付録1用語集への変更履歴記録を加えます。この流れは約1〜2時間で終わります。
第二は新規用語の双方向フィードバックです。LOREBOOK作業中、Vaultにない新しい用語が現れることがあります。新短編の新語が自然に入る場合です。LOREBOOK項目の編集メモに「Vault未登録: [用語名]」とタグを置き、次四半期のライブラリング第一次・第二次増分周期でその用語を九分類の一つに登録し、13カラムを作成します。第三次骨格ビルドで新しい.mdが生成され、第四次叙述執筆で散文が満たされます。その後、LOREBOOK編集メモの「Vault未登録」を[[用語]]に置き換え、frontmatterもライブラリングfrontmatterをそのまま受けて更新します。
フィードバック周期が速く自動化されるほど運営は軽くなるため、毎四半期の定期実行を勧めます。
バージョン管理 — gitタグという単一ツリー
LOREBOOK運営の第二部はバージョン管理です。第一次周期がv1.0として刊行された後、v1.1・v1.2・v2.0の更新が進みます。
表記規約は単純です。v0.xは刊行前作業段階の内部バージョンです(v0.1初稿→v0.2第一次改作→v0.3整合通過)。v1.0は刊行本、v1.xは刊行後の微細更新、v2.0は次版です。v_確定は一項目または一資料がこれ以上変更されない状態で、イラスト発注のように後続作業が依存する時点に使います。v_最終はv_確定のうち、最後の統合ビルド検収まで通過した状態です。
運営にはgitタグに基づく単一ツリーを勧めます。v1.0/、v1.1/、v2.0/のようなディレクトリ分岐は勧めません。項目.mdが版ごとに重複して第1章の単一.mdソース原則に反し、相互参照リンクがディレクトリごとに壊れるためです。
gitタグ方式では、すべての資料が単一ツリーにあり、gitの時点スナップショットが版を決めます。
[プロジェクト LOREBOOK]/ (単一ツリー、git管理)
│
├─ git tag v0.1 ← 初稿(Phase 3終了)
├─ git tag v0.2 ← 第一次改作(Phase 4終了)
├─ git tag v1.0 ← 刊行本(Phase 6印刷完了)
├─ git tag v1.1 ← 再刷時の微調整
└─ git tag v2.0 ← 次版
この方式なら単一.md原則と相互参照が保たれます。ただしv2.0がv1.xと部構成を根本的に変える場合、たとえば10部から14部への拡張、部の統合・分割のような大変動では、v1.x_archiveとv2.0のディレクトリ分岐が自然です。それ以外はgitタグで処理します。
版を更新する際は_進捗状態.mdに更新内容を記録します。「v1.1: 短編047・052・061の引用追加、9部§3男巫項目更新」のような一行です。この記録がLOREBOOK運営の時間を追う資料になります。読者はv1.0とv2.0の変遷を一か所で確認でき、次版刊行時にはv1.xのどの部分が最も頻繁に更新されたかを分析し、次版の部構成を決める資料にできます。
イラスト発注の一原則
運営の第三部はイラストです。第11章のPhase 3・6で発注手順を扱いましたが、運営段階でもイラスト追加は続きます。
原則は一つです。イラストは本文v_確定後に発注することです。
本文が未確定の状態で発注すると、本文更新時にイラストも再発注しなければならず、回復費用が大きくなります。一枚のイラストに入る人間作家の時間は本文一項目の五倍以上であり、通過したイラスト案の後に本文更新で人物外形が変われば、案そのものを廃棄することもあります。この費用を防ぐため、本文がv_確定の合格線を超えてから発注を始めるのが標準です。
12部型標準LOREBOOK約450pの目安は、表紙(表・裏・背)3枚、見返しイラスト2〜4枚、巻頭全面1枚、部導入12枚、キャラクター30〜50枚、フルカラー章ヘッダー12〜15枚、地図5〜10枚、図解20〜40枚、小さな雰囲気カット50〜100枚です。IPに合わせて調整します。
各イラストには仕様カードを作り、項目の編集メモに置きます。
<!--
イラスト仕様:
- 種類: 部導入 / キャラクター / 地図 / 図解
- 分量: 1p全面 / 0.5p / サイド / 小カット
- 描写: [中核視覚。本文のどの場面を描くか]
- トーン: サイバーパンク / 東洋 / 次元の彼方 / 日常
- 登場人物: [キャラクターシート [[名前]]]
- 色調: 5色パレットのうちどの色を強調するか
- 発注状態: 未発注 / 発注 / 案 / 確認 / 完了
- 作家: ___
-->
仕様カードが発注資料です。AI作業パートナーが自動作成し、人が検収する流れを勧めます。作家に同封する資料は五つです。視覚が登場する項目本文.md、人物ならキャラクターシート、7音色と5色パレットを含むトーンガイド、同じトーンの外部作品参照3〜5枚、必須要素の詳細チェックリストです。
案の検収は四段階です。一次案(ラフ)で描写と構図、二次案(ペン線)でディテールと人物、三次案(彩色)でトーンと色調、最終(仕上げ)で印刷可能な仕様を確認します。各段階を本文作成者が検収し、本文と衝突すればイラストを本文に合わせます。本文がSSOTだからです。
AIイラストの領域
AI画像生成が市場に定着したため、LOREBOOKイラストにもどこまで委任し、どこに人間作家を置くかの方針が必要です。
推奨は、人間作家への発注前にトーンを合わせるためのコンセプト案、ムードボードと参照カット、地図・図解・ダイアグラム(正確性のため人間検収後に使用)です。条件付きは、シリーズのトーンとキャラクター一貫性が確保された本文間の小雰囲気カット、そして人間作家の後処理を義務づける部導入・章ヘッダーです。非推奨または禁止はキャラクターイラストと表紙です。主要人物の外形整合性とシリーズ一貫性を保ちにくく、表・裏・背表紙はマーケティング、著作権、識別性のすべてで人間作家の専属領域だからです。
運用規則は六つです。AI生成イラストはクレジットページにモデル・プロンプト・後処理者を記し、キャラクターシートや本文描写と衝突すれば廃棄します。本巻収録イラストはすべて人間イラストレーターの後処理を受け、同一人物・場所が複数に現れる場合は人間作家の一貫性検収を受けます。学習データ出所が不明なモデルは使わず、コンセプト・ムード・図解にはAI補助を許可し、表紙とキャラクターは人間専属にします。
更新周期 — 四半期と5年
LOREBOOK運営の更新周期には四半期ごとの更新と次版刊行の二層があります。
四半期更新は一回約2〜3日です。自動検査(1〜2時間)でリンク切れとfrontmatter一致を点検し、Vault同期(半日〜一日)で新標題語の還流と名称変更の一括置換を行い、キャラクターシート同期(半日)で人物カードを更新します。短編整合性検証(半日〜一日)では当四半期の短編資料を確認し引用ボックスを追加します。付録自動再生成(1〜2時間)で用語集・索引を作り直し、変更履歴記録(1〜2時間)で_進捗状態.mdとgitタグを更新します。
次版刊行は5年または10年の運営後、v2.0として進む大周期です。v1.x運営資料整理に1〜2か月、部構成再検討に一か月、ディレクトリ再構成と新資料追加を含むv2.0作業に3〜6か月、Phase 4〜6に3〜5か月かけます。最後に新表紙と新ISBNでv2.0を刊行し、v1.xはarchivedとして保存します。第一次周期に近い約8〜14か月ですが、v1.x資料から始めるため一段軽くなります。
5年後の姿
架空IP「○○」が5年運営された後を見ます。本巻は2026年v1.0、B5上製450p・初版1,000部から始まり、2026年v1.1で微調整と500部再刷、2027年v1.2で短編引用追加と500部再刷、2028年v2.0で12部型から14部型へ拡張し新刊1,500部となります。
別巻短編集は2026年の短編30編・600pから、2027年に短編50編追加・800p、2028年に短編100編・1,000pへ育ちます。ウェブ公開本はlorebook.example.com/○○で四半期ごとに更新され、5年累積ページビュー約50万に達します。Vaultは第一次の1,200標題語から5年後に1,800標題語へ増え、Obsidianグラフのノード間接続も濃くなります。キャラクターシートは5年累積100人、短編は100編となり、多言語刊行では英語版一冊(2027)と日本語版一冊(2028)が加わります。
LOREBOOKは一度つくって終わる資料ではないことが、この5年の姿から自然に分かります。毎四半期2〜3日の小更新と、5〜10年に一度の次版周期がLOREBOOKの運営形態です。本棚の一冊は停止した資料ではなく、IPの時間をともに追う生きた資料になります。
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