MEJE PROCESS · MEJE ロアブック制作ワークフロー (15 章)
第3章 ライブラリングの次――VaultからLOREBOOKへ
第3章 ライブラリングの次――VaultからLOREBOOKへ
一つのIPを五年間運営してきた人の机を想像してください。書棚の片側にはルールブック七冊。第1・2・3版の本編が最も厚く、その間に補助資料集が数冊、表紙の擦れた第0版も一冊残っています。コンピューターには短編百本のテキストファイル。企画書フォルダにはv1.0、v1.1、v1.1_修正、v1.2_最終_再最終という似た名の文書が約三十件。別のモニターには外部Wikiが開き、生きている頁は二百にも届きません。どこまでがIPの公式資料かを知るのは一人の頭の中だけで、その記憶が曇ればIPも曇ります。この風景から一冊のLOREBOOKへ向かう最初の段階がライブラリングです。
ライブラリング後には、散らばった資料が一つのObsidian作業フォルダへ集まり、サイドバーに1,500個の.mdファイルが五十音順に並びます。グラフビューを押すと、1,500のノードが5,000〜10,000本のリンクで結ばれた構造が一画面に広がります。密集した領域がIPの核心、疎な領域が周縁です。一人の頭にしかなかった資料が手で触れられるものへ変わった姿。それがライブラリング済みIPのVaultであり、LOREBOOKが受け取る標準入力です。
LOREBOOKが9〜14か月で終わる理由の半分は、この入力の形にあります。散らばるルールブック、短編、企画書、外部Wikiから見出し語を抽出・分類・整理するライブラリングがすでに終わっているからです。LOREBOOKは整理済み資料を一冊に束ねます。本章はその入力の形を確かめます。
ライブラリングが未完でも資料がある程度あればLOREBOOKは始められ、ライブラリングが整理の対となる道具として伴います。ただし本章では完成済みVaultを標準入力とします。
初めてVaultを開くとき
Obsidianで完成済み作業フォルダを開くと、サイドバーに1,000〜2,000個の.mdファイルが並びます。人物・場所・事物などのフォルダ別の場合も、全ファイルを一フォルダに置きfrontmatterだけで分類する場合もあり、LOREBOOKはどちらでも影響を受けません。
興味深いのはグラフビューです。一つのノードが一見出し語、一つの線が別の見出し語へ向かうwikilinkです。この図がIPの肖像になります。密集域には人物群や一都市の資料が凝集し、疎な領域には資料が少ない。その疎らさは弱点ではなく優先順位を示します。読者が巫俗によく出会うIPなら巫俗領域が密になり、都市風俗によく出会うならその領域が密になります。
LOREBOOKは1,500ノードと5,000〜10,000リンクから始まり、それらを部・章・節へ束ねた結果が一冊の上製本になります。
一つの見出し語の形
本稿は架空IP「○○」を例にします。韓国巫俗と19世紀英国風俗を混ぜ、巫堂・料理・日常が一都市に共存する世界です。資料同士が時空間的に離れ、読者のIPと直接重ならないため、手順移植の抽象例に適します。神降ろしの儀式、男性巫堂、凝り、ヘウォン食堂、六スタイル地区、メリトン、ハンスフォード牧師館などが見出し語です。
Vaultの一ファイルを開きます。
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title: 神降ろしの儀式
aliases: [降神儀礼, ネリムグッ]
category: 装置
worldbuilding_axis: 巫俗
english: Spirit Possession Ritual
romanization: Sinnaerim Uisik
version: 現行
sources:
- ルールブック第3版 p.24
- 短編047
related:
- "[[男性巫堂]]"
- "[[凝り]]"
- "[[憑依]]"
translation_notes:
- 推奨音写: "Sinnaerim Uisik"
- 英語解説: "spirit-descent ritual; the moment when a Mudang first hosts a deity"
tags:
- category/装置
- axis/巫俗
- version/現行
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# 神降ろしの儀式
## 定義
男性巫堂が初めて神を受ける儀礼。巫俗において一人の巫堂の生涯で最も重い瞬間を占める。
## 詳細説明
神降ろしは男性巫堂が自らの内に神を受け入れる最初の儀礼である。終わると巫堂は神の通路になる。数日間にわたり、家族と近隣住民も参加する。憑依が起きれば正式な男性巫堂と認められ、失敗すれば再挑戦できない。
%% LLM %%
本IPにおける神降ろしは、一人の巫堂の魂が初めて別の魂を受け入れる瞬間である。進行中、身体は次第に軽くなり、やがて自分だけのものではなくなる。その軽さが巫堂という職能の始まりである。
%% /LLM %%
## 関連見出し語
- [[男性巫堂]]。儀式後の職能
- [[凝り]]。儀式が解く対象
- [[憑依]]。儀式の結果起きる現象
この一ファイルがLOREBOOK入力の一単位です。最上部の---で囲まれた領域がYAML形式のfrontmatterです。人が直接読むより、Obsidian検索や自動化スクリプトが読みます。その下に定義、詳細説明、%% LLM %%で囲まれた200〜1,000字の散文、関連見出し語が続きます。%%は散文だけを抽出するためのObsidianブロック標識です。
五部分が1,500ファイルの同じ位置に並ぶため、一件ずつ読まず一括処理できます。
9分類――物語の中で何をするか
frontmatterのcategoryは九つのどれかです。問いは「このキーワードは物語でどんな機能を持つか」。名札(専門用語)、人格(人物)、舞台(場所)、道具(事物)、起きたこと(事件)、作動原理(装置)、雰囲気(ミザンセーヌ)、思考単位(概念)、倫理原理(価値)の一つです。
架空IP「○○」なら、黒孔・コフィン・インプラントは専門用語、カン・ミョンスク・男性巫堂・ベネット家は人物、メリトン・神壇・ハンスフォード牧師館は場所、魔法の杖・東インド会社は事物、求婚事件・黒孔発生・神降ろしは事件、次元移動・メイティング・憑依は装置、雨・黒・太鼓音はミザンセーヌ、限嗣相続制・結婚経済学は概念、自由・犠牲・運命は価値です。
九分類はすべてのIPに同じく適用されます。武侠の武功、SFのワープドライブ、19世紀英国の限嗣相続制も同じ九枠のどこかに入ります。『シルマリルの物語』ならヴァリノール(場所)、イルーヴァタール(人物)、シルマリル(事物)、ダゴール・ダゴラス(事件)、魔法(装置)、バラヒアの指輪(事物)。『海辺のカフカ』なら高松(場所)、田村カフカ(人物)、石(事物)、猫殺害事件(事件)、夢の媒介(装置)です。あらゆる物語に人、場所、事件、道具、作動原理があるという普遍的骨格を示します。
世界観軸――このIPを構成する領域
世界観軸は、キーワードがIPのどの領域に属するかを問い、IPごとに異なります。「○○」は巫俗・料理・魂霊・現世・関係・一般の六軸です。ファンタジーなら魔法体系・世界地理・種族・政治勢力・神話・一般、SFなら技術・社会体系・宇宙地理・生物学・歴史・一般、武侠なら武功・門派・江湖勢力・世界・縁・一般が自然です。
『Eberron』なら魔法工学・ドラゴンマーク・五国家・宗教・一般が自己認識を作り、Magitech軸が『Forgotten Realms』のウィーヴ魔法と区別します。『Disco Elysium』なら政治思想・階級葛藤・記憶喪失・都市風俗・魔術的リアリズムが正体を示します。
軸はライブラリング第1周期で決めます。三つ以下では一軸に集中し分類が無意味になり、八つ以上では境界が曖昧になります。通常5〜7軸が自然です。どの領域を独立軸にするかはIPの自己認識を示す創作上の決定です。
二座標は直交する
9分類と世界観軸は互いに影響しない、数学でいう直交関係です。同じ人物が巫俗・料理・魂霊のどれにも属し得て、巫俗軸の見出し語も人物・場所・装置のどれにもなれます。
各見出し語は(9分類一つ)×(世界観軸一つ)の二座標を持ちます。「神降ろし」は装置×巫俗です。1,500項目はこの平面に点として置かれます。9分類で部を、世界観軸で部内の章を決めれば、手作業せず二座標検索でマッピング候補を自動作成できます。
13カラム――一見出し語が担う資料
13フィールドは機能別に五領域へまとまります。識別資料はIDX、title、aliasesの三つ。分類資料はcategoryとworldbuilding_axis。本文資料は一行定義、詳細説明、related。多言語資料はenglish、romanization、translation_notes。メタ資料はversion(現行・過去・廃棄・二重表記・未定)とsourcesです。
LOREBOOKではtitleが項目名に、二分類が部マッピングに、定義が一行要約に、詳細説明が導入に、relatedが関連項目に、versionが本文登場可否に使われます。八つ(title、aliases、category、worldbuilding_axis、english、romanization、version、translation_notes)をそのまま受け、hub_or_leaf、lorebook_section、LOREBOOK固有タグを追加します。1,500件のfrontmatterを再決定する一週間を省く原則です。
変換パターン――1:1、N:1、1:N
約80%は1:1で、一つのVault見出し語が一つのLOREBOOK項目になります。神降ろしは第2部§3巫俗体系へ移り、frontmatterと散文ブロックをそのまま受けます。
約15%は複数見出し語を統合するN:1です。宮廷区、サロンズ、ヒップス、資本区、ノマド、庶民区という六つの場所が現世軸にあり、合わせて「六つの朝」という大単位を作るなら、一項目に統合するか六項目に分けるかを決めます。統合は大きな絵、分割は各領域の詳細に適します。第4部§1に統合概観、第6部§1に六つの分割項目を置き、両方を採ることもできます。IPと読者利用を知る人が決めます。
約5%は一つを複数へ分ける1:Nで、メガhubに限ります。中心見出し語黒孔が長大で全見出し語から引用されるなら、第2部§1黒孔の本質、第4部§3黒孔発生地、第7部§2黒孔処理職群へ分けます。分割しすぎると情報が散るため、一般hubには適用しません。
バージョン状態――IPの時間層
versionの五状態はIPの時間を示します。現行は現在使う資料。過去は旧版の呼称で、本文では旧表記と明示し現行名を併記します。廃棄は本文に出さず付録用語集に痕跡だけ残します。二重表記は地域別名称など二表記が意図的に共存する状態。未定は未確定で本文に入りません。
本文に入るのは現行・過去・二重表記だけで、廃棄と未定は本文grepで0件が合格です。一行のfrontmatterがIPの時間変化を保持します。
tags――Vaultを照会エンジンにする
tagsはObsidianと直結します。ライブラリングがcategory/装置、axis/巫俗、version/現行を付け、LOREBOOKがlorebook/hubとlorebook_section/02-§3-巫俗体系を追加します。
tag:category/装置 AND tag:axis/巫俗で巫俗の装置を一括抽出し、tag:category/人物 AND tag:axis/料理で料理領域の人物、tag:version/廃棄で本文除外項目、tag:lorebook/hubで深層項目候補を得ます。12部型の二座標組合せを定義すれば部マッピング候補も自動生成されます。
付録5 NPCミニカードは人物タグ、付録4年代記総覧は事件タグ、付録1用語集は全見出し語の定義カラムから生成できます。整合性検査では廃棄タグが本文にあればFAIL、hubなのに本文200字未満ならWARNです。一行のタグが1,500項目の分類・検索・検証を自動化へ移します。
本格作業の開始時点
次回から本格作業を始める時、机上に必要なのは一つのObsidian Vault、1,000〜2,000個の.mdファイル、各frontmatterの13カラム、決定済みの9分類と世界観軸、正常なグラフビューです。
不足があればライブラリングへ戻ります。空欄は第2次統合で補い、分類や軸が未決なら第1周期で決めます。そろっていれば骨格決定へ直行します。
ライブラリング資料の全貌は、Vault 1,500見出し語、一ファイルの五部分、13カラム、二座標、三つの変換パターン、五つのバージョン状態、tagsシステムです。これがLOREBOOKの入力であり、本格作業はこれを一冊へ移します。
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