MEJE PROCESS · MEJE ロアブック制作ワークフロー (15 章)
第2章 五種類のLOREBOOK
第2章 五種類のLOREBOOK
市場で同じ呼称が指す本は、一種類ではありません。
書店のTRPGコーナーでD&Dの『Forgotten Realms Campaign Setting』を開くと、一頁に都市名、勢力名、人物名がびっしり並び、余白には小さな地図や家系図が挟まっています。一つのIPの全資料を一冊に整理した辞典のような本です。同じ書店のビデオゲーム・アートブック売場へ移ると、『Final Fantasy X Ultimania』は一面いっぱいのイラストと、向かいの面の短い設定文を組み合わせています。見開きの半分が絵である画集のような本です。漫画売場の『神之塔 公式設定集』は一人のキャラクターに1〜3頁を割き、フルカラーの絵、短いプロフィール、作者コメントを収めています。巻末には人気投票結果とファンQ&Aが付き、グッズに近い本です。
三冊は同じ呼称でまとめられますが、互いに異なる形をしています。
さらに一般書店では出会えない二種類があります。Netflix『Stranger Things』の新シーズンの作家室に置かれるシリーズバイブルと、ゲームスタジオのデザイン会議室で印刷され回覧されるコンセプトバイブルです。どちらも外部協力者だけに共有される非公開PDFで、表紙にはNDA(Non-Disclosure Agreement、秘密保持契約)の印が押されています。
五種類に整理できます。標準百科事典型(A)、アートブック・公式設定集型(B)、ナラティブ・バイブル(C)、ゲームデザイン・バイブル(D)、**漫画・ウェブトゥーン公式設定集(E)**です。五つは一つの本体の変奏ではなく、異なる読者、媒体、発行形態のための本です。同じ呼称で結ばれるのは、一つのIPの資料を一冊に束ねるという仕事の性格が同じだからです。しかし実際には非常に異なる本であることを、自分のIPにどれを適用するか決める際に忘れてはいけません。
本稿は五つのうち最初の標準百科事典型に全14回を集中します。他の四つが標準のどこを大きくし、どこを小さくする変形なのかを本章で扱い、その上で読者のIPに近い種類を見定めます。
A. 標準百科事典型
D&Dの『Forgotten Realms Campaign Setting』をもう一度開きます。約320頁、B5判上製本。第一章はフェイルーン大陸の形而上学と、ウィーヴ(The Weave)という魔法体系から始まります。次章が千年単位の年代記を一つの流れにまとめ、その後にウォーターディープ、バルダーズ・ゲート、シルヴァリームーンなど都市の全貌を展開します。ウォーターディープ一都市に約30頁を割き、その中に都市平面図、五人の領主名、五つのギルドと三つの敵対勢力、いくつかの路地、さらにそこで頻発する陰謀の種類まで入っています。続いて50人の人物カードが並びます。エルミンスター、カエリア・コーナソーン、マヌシャンドラ・サといった人物が一頁に一人ずつ、フルカラーイラストと短い略伝とともに整列します。読者がキャンペーンを組む途中で一場面を必要としたとき、どの頁を開いても資料をつかめる形です。都市、勢力、人物ごとに資料が分かれ、一項目を開けばそこで完結し、次へ自然に移れます。
同じ種類には『Eberron: Rising from the Last War』、『Lancer』ルールブックのWorld Book(約200頁)、インディーRPG『Heart』の設定資料(約216頁)、『Coyote & Crow』の世界観資料(約530頁)が入ります。通常200〜470頁、推奨は約450頁、項目数は300〜600、各項目は1〜3頁です。
骨格は12部型です。12部のうち地理(D)と種族・勢力・人物(E)の合計が全体の50%を超えるのが自然です。読者がLOREBOOKで最もよく検索するのは人物と場所であり、この二領域が軽い本は検索満足度が下がるからです。
標準百科事典型は幅広い読者に届きます。自分のIPを百科事典に整理したい創作者、ゲーム・小説・ウェブトゥーンの世界観を一冊に束ねたいIP所有者、外部作家や翻案者にIPの全貌を見せたい場合、ファンダムに公式資料を提供したい場合がすべて含まれます。五つのうち一般読者と創作者に同時に届くのが標準です。他の四つが読者を絞るのに対し、標準は広い読者を一冊に受け入れます。
B. アートブック・公式設定集
この種類は、本が自らを「物」にする点で他の変奏と分かれます。
手に持ったときの重さ、フルカラー上製表紙の光沢、見開きいっぱいに広がるイラストが、その物質性を作ります。『Final Fantasy X Ultimania』が約420頁のフルカラー上製本になるのは、情報伝達だけでなく、読者が書棚に差し、時折開く「物」にするためです。見開きの左にはティーダのフルカラーイラスト、右には彼の出生、ザナルカンドという育った夢の意味、秘められた真実、父ジェクトとの関係が約800字で入ります。頁の縁には金箔が施され、閉じて棚に差すと黒革の背にFFX Ultimaniaと金で刻まれ、その本自体がIPの一つの物になります。同類にはCD Projektの『The Witcher 3 World Compendium』、FromSoftwareの『Elden Ring Lore Book』、HoYoverseの『Genshin Impact 公式設定集』があります。
特徴は、一つの見開きが一単位であることです。左右二頁で一項目を作り、半分がフルカラーイラスト、半分が文章です。全体では視覚資料が40〜50%を占め、標準の二倍です。約400頁に100〜250項目が入り、標準の半分ほど。一項目は800〜1,500字で、これも標準の半分です。同じ頁で資料を半分に減らし、その場所をイラストで満たします。
この種類が高価な理由は明白です。イラストが作業時間の30%を占め、フルカラー上製印刷で単価も上がります。ゲームイラストやキャラクターイラストの資産が豊富なビデオゲーム、アニメ、漫画IPに自然に適します。資産のないIPがアートブックを試みれば、最初からイラストを発注する必要があり、費用は標準百科事典型の三倍以上になります。視覚的アイデンティティが強く、ファンダムのコレクター市場が大きいIPがアートブックを試みる理由です。
C. ナラティブ・バイブル
新シーズン最初の作家室会議を想像してください。8〜10人の作家が囲む机にPDFが印刷され、表紙にはNDAの印があります。それがシリーズバイブル、またはShow Bibleです。Netflix『Stranger Things』、HBO『Game of Thrones』、Marvel StudiosのMCU、Disney IPのようなシーズン制IPのほぼすべてで作られますが、視聴者のうち存在を知る人はわずかです。『Lost』のシリーズバイブルが終了約10年後の作家インタビューで「約200頁のPDFで、一人のバックストーリーに7〜8頁を割いた」と短く触れられた例、『Game of Thrones』のシリーズバイブルがHBO社内だけで回覧され一頁も公開されなかった事実が、その知られざる姿を示します。
知られていないこと自体が、ナラティブ・バイブルの正体を作ります。読者は一般読者ではなく、シリーズをともに作る仲間、すなわち外部作家、監督、翻案者です。この点が本のすべてを決めます。親切に案内する調子ではなく、核心情報を速く伝える調子で、文章は短く情報密度が高い。人物カードの一行目に「出生、12歳のトラウマ、シーズン3末の転換点」が一行で圧縮され、その下に「この人物の台詞末は句点より読点が自然」のようなトーンガイドが二行で入ります。シリーズ終了後何年経ってもほぼ公開されないのも同じ理由です。読者が限定された本には一般市場へ出す動機が弱いのです。
100〜250頁と他種より軽く、項目数は80〜150です。人物が本巻の40%以上を占め、一人に7〜10頁を使うことも珍しくありません。人物別台詞トーンガイドはシーズンの調子を揃える必須資料となり、事件構造にはシーズン・エピソード単位の構成が加わります。映像シリーズ(TVドラマ、OTT、映画フランチャイズ)、多数の作家・監督が共有するIP、ライセンス事業が核心のIP、長期シーズン運営に適します。
D. ゲームデザイン・バイブル
この種類の面白さは、時間とともに正体が変わることです。
ゲーム発売前、コンセプトバイブルは非公開PDFとしてスタジオ内だけを回ります。コンセプトアート、スキルツリー図、都市平面図、メカニクス説明が同じPDFに混在します。GDD(Game Design Document)付録、モバイルゲームIPバイブル、コンソール・PCゲームのコンセプトバイブル。呼称は分散し、どこまでがLOREBOOKでどこからがゲームシステム説明書か、境界は明瞭ではありません。
発売から5〜10年経つと興味深い変換が起こります。PDFの一部が『Making of ○○』のような形で一般書店へ出ます。コレクターズエディションの付録になったり、IPデザイン秘話として別冊刊行されたりします。非公開資料から始まり、ゲームの寿命が伸びるとマーケティング資産へ変わる地点です。発売直後のD変奏の読者は開発チームですが、五年後の読者はそのゲームのファンです。
この変換可能性がD変奏の構成に影響します。最初から後で公開してよい資料と永久に非公開にする資料を分けます。キャラクターデザイン秘話や都市コンセプトは公開可能領域へ、ゲームシステムの核心アルゴリズムや未公開キャラクターは永久非公開領域へ置きます。C変奏が最後まで非公開にとどまるのに対し、D変奏が部分公開の可能性を持つことが分岐点です。
150〜350頁、120〜250項目です。第9部人物分類はPC(Player Character)とNPCに分かれ、第2部世界法則はゲームメカニクスへ直接つながり、付録にゲームシステム説明書が加わります。ルールブックが別ならLOREBOOKはルール数値を含めず(ルールブックがSSOT)、統合するなら一部数値が入ります。PC・コンソールゲーム(RPG、アドベンチャー、シミュレーション)、IP比重の大きいモバイルゲーム、インディーゲームの発売前設計資料、ゲームIPのメディアミックス展開に自然です。
E. 漫画・ウェブトゥーン公式設定集
この種類は、読者が本編をすでに読んでいるという前提で組まれます。
本編を読まずに『神之塔 公式設定集』を買う人はほとんどいません。『NARUTO 公式キャラクターブック』、『DEATH NOTE 13 HOW TO READ』、『とある魔術の禁書目録 キャラクター事典』も同じです。漫画本の隣に置く資料で、本編の物語を頭に持つ読者が、その先をもっと触れたいときに開きます。『DEATH NOTE 13 HOW TO READ』の一頁には、夜神月のフルカラーイラスト、彼が使ったデスノートの頁写真、好物(「ポテトチップス」)、身長(179cm)・体重(62kg)、原作者・大場つぐみの短いコメント(「初めて彼を描くとき、眼鏡越しの目が最も難しかった」)が並びます。本編読者にはシリーズの人物と再会する瞬間になり、未読者には情報の意味がつかめません。
この読者像が本のすべてを決めます。人物が本巻の60%以上を占めるのは、読者が最も知りたいのが本編で会った人物の詳しい正体だからです。一人に1〜3頁を割き、フルカラー人物画、短いプロフィール、作者コメント、本編の短いコマ引用を収めます。短編引用が本編コマ引用に置き換わるのも同じ理由です。本編読者には一コマが一場面の記憶を直ちに呼び起こします。
付録も異なります。巻末には人気投票結果、ファンQ&A、作者インタビューが必須のように付き、デザイン秘話や設定の裏話が明かされます。読者が買う動機は本編をもっと味わいたい欲求であり、付録はその直接の答えです。
100〜200頁と軽く、50〜150項目です。長期シーズンのライブサービスIP、活発なファンダムを持つIP、ライトノベルIPに適します。本編が十分な量と時間を積んでいないIPが試みると、読者は少ない本編資料を二倍に膨らませただけの本と受け取り、満足度が下がります。
読者のIPに合う種類はどれか
五つを並べましたが、読者のIPに近い種類は、ほぼ二つの問いで決まります。
読者は誰か。そして本は公開か非公開か。
一般読者と創作者の双方へ届かせるなら標準百科事典型です。ファンとコレクターが第一読者ならアートブックか漫画・ウェブトゥーン公式設定集で、その分岐は視覚資産の規模と本編依存度で決まります。外部作家・翻案者との非公開協働ならナラティブ・バイブル、ゲーム開発チームとの非公開協働ならゲームデザイン・バイブルです。一般書店を前提としない二種類が非公開領域で分かれます。
第三の問いが影響する場合は、IPの本体媒体が何かです。TRPG・小説・世界観IPは標準へ、ビデオゲームは視覚資産比率に応じてアートブックかゲームデザイン・バイブルへ、TV・OTTシリーズはナラティブ・バイブルへ、漫画・ウェブトゥーン・ラノベは公式設定集へ進みます。ルール・数値の有無と視覚資料予算は、種類決定後についてくる変数に近いものです。
IPが二種類の間にある場合、たとえばゲームであり同時に漫画・ウェブトゥーン化される場合には、二種類を同時に作るより標準百科事典型を先に作り、そこから二変奏を分岐させることを勧めます。標準から変奏へは整理済み資料の再分類ですが、変奏から標準へ戻るのは資料を作り直す仕事に近いからです。
種類が違っても同じ骨格
五種類は異なりますが、LOREBOOKに必要なマクロ六セクションは同じです。序文・世界のトーン、宇宙観・法則、歴史・年代記、地理・文化・日常、種族・勢力・人物、図鑑・付録。どのLOREBOOKにも六つが現れます。分割、統合、名称、比重はIPごとに異なっても、欠ければ読者は本をたどれません。
標準百科事典型は六セクションを12部に分け、他の変奏は分割比率と比重が異なります。アートブック型はDとEを見開きで大きくし、ナラティブ・バイブルはEを本巻の40%以上へ、ゲームデザイン・バイブルはBをゲームメカニクスへ格上げし、漫画・ウェブトゥーン公式設定集はEを60%以上へ格上げします。骨格は同じで、どこをどう大きくするかが違います。
同じ呼称で結ばれながら異なる五冊があること、そして五冊が同じ骨格上で異なる比重分布を持つこと。この二つが読者のIPへLOREBOOKを適用する出発点です。五冊の姿は異なりますが、仕事の性格は一つです。次回からその性格を本格的に解きます。
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