KIM DONG-EUN · FTUE:初回ユーザー体験 (30 章)
第27章 AI時代のFTUE
第27章 AI時代のFTUE
AIが最初の画面を変えても、利用者が支払うコストは消えない。
AIが作った最初の画面は滑らかだ。一人ひとりに合わせたキャラクターが自ら前に立ち、話し方までその人の感性に届く。だが、その滑らかな画面の前でも、初めて来た人は相変わらず時間をかけて読み、頭を使って学び、初めて見るものを信じてよいか迷う。第11章で見た時間と集中力のコスト、そして信頼の負担は、誰が画面を作ろうとそのまま請求されるからだ。
これまで最初の画面は、誰もが同じものを見る場面だった。こちらが一つの場面を組めば、誰が入ってきてもそれに出会った。ところが、機械が人ごとに異なる最初の画面を自動で作ることは、すでに始まっている。訪れた人が何を選び、どんな感性に惹かれるかを読み、その人に合わせてキャラクター、話し方、最初の動作を変えて提示する。ある利用者には温かな最初の画面が、別の利用者には鋭い最初の画面が届く。同じゲームなのに、二人の「最初」は違う。
ここで奇妙な問いが生まれる。最初の体験が人ごとに異なって作られるなら、「最初」とは誰の最初なのか。私たちが組んだ一つの最初は消え、利用者の数だけ最初が生まれる。本章ではこの変化を見渡す。ただし、AIを使う多様な方法の詳細とその深い倫理は付録Cに譲り、まず一点を明らかにしておく。AIが最初の体験を変えるのは確かだが、本書が築いた原則まで変えるわけではない。8階層も、体験のコストも、ゲーマーの常識を検問する作業もそのままだ。AIは原則を書き換えるものではなく、それをより速く、より細かく実装する道具にすぎない。
機械が一人ひとりに異なる最初の画面を作る
AIが最初の体験に入る姿は、おおむね三つに分かれる。一つ目は人ごとに画面を変えることだ。訪れた人の感性を読み、その人に合うキャラクターを前に立たせ、好みそうな最初の行動を先に勧める。映像サービスが一人ひとりに異なるホーム画面を並べるように、ゲームの最初の画面も人ごとに変わる。二つ目は利用者と言葉を交わすことだ。決められたチュートリアルの代わりに、利用者が尋ね、機械が答え、その人の速度に合わせて案内する。三つ目はその場でコンテンツを作ることだ。利用者が選んだ感性に合わせて、キャラクターの姿や台詞を即座に生み出す。第5部を通して追ってきた仮想ゲームなら、第26章でファンが選んだ色と模様を読み、次のキャラクターをその場で作るようなものだ。
ここでは三つの系譜の年代を分けておく必要がある。第一の推薦とパーソナライズは20年以上の歴史を持ち、映像・音楽・コマースがすでに一世代を回してきた技術だ。この時代に本当に新しく登場したのは、第二と第三、すなわち対話型の案内と即時生成である。ただし、コストの原則は三つすべてに同じように当てはまる。古い系譜で得た教訓は新しい系譜にもそのまま通用する。これが本章の土台であり、生成AI以前の事例が多くても古びない理由だ。
三つが狙う場所は、すでに前で見た場所である。初めて来た人は白紙に近く、その白紙を推し量ることが、最初の体験設計における長年の難題だった。第26章ではその難題を利用者の最初の選択で解いたが、AIは同じ難題を別の方法で解く。利用者が選んだものだけでなく、滞在時間、指が止まった場所、似た人々の行動まで集めて、より早くその人を推し量る。白紙に最初の一行を引くのが上手になったわけだ。
だが、より上手に推し量ることが、常に正しく推し量ることを意味するわけではない。初めて来た人についてAIが知ることも結局は少ない。似た人々がこうだったから、あなたもそうだろうと推測する。その推測が外れれば、最初の画面から別人として扱うことになる。白紙を読み違えるなら、白紙のままにしておくより悪い第一印象になりうる。一人ひとりに合わせるという約束は、合わせ損ねたときにずれがさらに大きくなる危険を常に伴う。
第二の系譜には固有の失敗がある。言葉で案内する機械は、知らないときも自信たっぷりに話す。初めて来た人が「これはどうするのですか」と尋ねたのに、案内が間違った操作を明瞭な口調で教えれば、その人は言われたとおりに押し、最初のセッションで動かない体験をする。人間の案内人がためらえば疑う手がかりにもなるが、機械の滑らかな誤答には手がかりすらない。初めて来た人は誤った案内を疑う知識が最も少ないため、自信に満ちた誤答のコストを最も高く払う。
第二の系譜には、失敗以前の敷居もある。対話型案内の最初の画面は、空の入力欄一つであることが多い。「何でも聞いてください」「何でもできます」と語る空欄の前で、初めて来た人は何から入力すべきか分からず固まる。第26章で見たとおりだ。深い自由度は初めて来た人にとって遊び場ではなく試験用紙であり、無限の自由を約束する空欄はその最も極端な姿である。対話型の最初の画面にも同じ処方が必要だ。空欄の代わりに押せる最初の質問を二、三個並べ、利用者が対話に慣れた分だけ自由を開いていく。
第三の系譜の失敗は、世界の調子が壊れることだ。即座に作られたキャラクターの姿や台詞が世界観の調子から外れれば、温かな世界を約束したのに、最初の画面で冷たい口調のキャラクターが現れるような食い違いが起きる。最初の画面が自ら約束を破るのだ。そこで生成された画面は公開前にサンプルを取り、第18章の第一印象点検を行う。画面が利用者の数だけ生まれ、全数検査が不可能なので、サンプリングが現実的な検査の手となる。三つの系譜の失敗を扱う詳しい道具は付録Cにある。
MEJEアイドンワールドで考えると、可能性と危険が同時に見える。AIはファンが選んだ色と仕草の感性を読み、そのファンに合うアイドンを即座に作れる。うまく合えば、ファンは世界に一つだけの「推しアイドン」に出会う。読み違えれば、心とは違うアイドンが「あなたの推し」だと現れる。外れた推薦を残念に思いつつ受け入れる人もいるが、ファンは自分の気持ちと違うものを推しとして押しつけられた瞬間に背を向ける。合わせる力が大きいほど、外れたときの失望も大きい。
パーソナライズすれば必ずよい、という魅力的な仮定
AIを扱う章なので、いつの間にか常識になった仮定を一つ検問所に立たせる。「パーソナライズすれば必ずよい。一人ひとりに合わせるほど体験はよくなる」という仮定だ。
この仮定が何を当然と見なしているかを確認する。全員に同じものを渡すのは怠慢な設計で、人ごとに合わせるほうが親切で効果的であり、調整が精密になるほど利用者は満足し長くとどまる、と考える。この前提は調整がうまく働いた事例から育ち、半分は正しい。よく合う最初の画面は、外れた画面より明らかによい。
しかし、初めて来た人の立場から見ると隙間が見える。合わせるとは、その人を何者かと定義したということでもある。一度選んだものから「この人はこういう人だ」と決め、その定義に合わせて次を並べる。合えば便利だが、外れれば本人ではない誰かとして扱われる。さらに、合わされた体験だけを受け続ければ、自分の知らなかった感性に出会う機会を失う。温かいものを選んだからと温かいものだけを受け取れば、その中に閉じ込められる。一人のための最初が、その人を広げるどころか狭めることがある。パーソナライズは合うときだけよく、外れたり人を閉じ込めたりするときは、しないほうがましだ。調整の精密さは、そのまま体験のよさではない。
さらに深い隙間は逆説の形をしている。最初の体験とは定義上、その人について何も知らない場所、推薦システムがコールドスタートと呼ぶ場所である。つまり、パーソナライズが最も必要に見える場所が、実はパーソナライズが最も無力な場所だ。データが蓄積した常連にはよく合わせる機械が、第一印象を左右する瞬間には最も不器用になる。この逆説を知らずに最初の画面から精密に合わせようとすれば、機械は足りない推測に確信の衣を着せて差し出す。
本質だけを残して改める。異なる感性を読み、一人ひとりにより合う最初の体験を与えるという目標は残し、「必ずよい」という断定を捨てる。パーソナライズは合うときに有用な道具であり、それ自体が善なのではない。だから合わせながらも、外れたときに利用者が抜け出す道と、私たちが気づく目を一緒に設計する。そして8階層も、コストも、慣習の検問も、AIが作った最初の画面にそのまま適用する。AIが作ったからといってコストは消えず、合わせ損ねた最初の画面は、むしろより大きな集中力のコストを課す。原則はそのままで、AIはその上で働く道具だ。
パーソナライズされた「最初」は、測るのも守るのも難しい
一人ひとりの最初の体験が違えば、それを測り、責任を持つことが難しくなる。第5部では最初の画面を段階に分け、どこで漏れるかを見た。だが、最初の画面が人ごとに違えば、全員が同じ画面を通らず、一地点の離脱を比較しにくい。一つの最初の体験をうまく作り、全員に対して一度だけ検査することもできない。利用者の数だけ画面があるも同然で、どの利用者がどの最初の画面を受け取ったかさえ、後から見直しにくい場合がある。測定も検査も難しくなるのだ。
そこに公平性の問題が加わる。調整する機械が、ある感性の人にはよい最初の画面を、別の感性の人には貧しい画面を与えることがある。意図がなくても、よく見てきた集団にはよく合わせ、珍しい集団には合わない偏りが生じる。誰かの最初は丁寧に作られ、誰かの最初は粗雑に作られるなら、最初の出会いから人を差別したことになる。パーソナライズされた最初は、うまく合う甘美さと同じだけ、外れと偏りの危険を抱えている。測定・検査・公平性を実際にどう扱うかは本文外の課題である(→付録C)。
もう一つコストがある。皆が同じ最初を体験していた時代には、最初の体験が共有記憶になった。「あの区間ではみんな迷ったよね」の一言で初対面の人々が笑え、その共有された最初がコミュニティのたき火になった。一人ひとり異なる最初は、そのたき火を小さくする可能性がある。同じ場面を体験した人が少なければ、共通の回想も減るからだ。だが、異なる最初の画面も、比較し、自慢し、議論する新しい話題になりうる。第24章で引き出したい出力にコミュニティを挙げたなら、パーソナライズが既存の共有記憶を減らすのか、それとも異なる体験を分かち合う新しいたき火を作るのかまで測らなければならない。
そこで、AIが作った最初の体験には信頼の柵が必要になる。三本の柱で立てる。第一は、なぜこれが表示されるのか分かるようにすることだ。受け取った最初の画面がどこから来たのか、何を見てこのように推測したのかが、ぼんやりとでも見える必要がある。第二は、切れるようにすることだ。調整が煩わしい、または外れているとき、利用者がそれを止めて通常の最初の画面に戻る取っ手が要る。第三は、間違いを直せるようにすることだ。機械が読み違えたとき、利用者が「私はそういう人ではない」と訂正し、その訂正が反映されなければならない。なぜ表示するのか、切れるのか、間違えば直せるのか。この三つがなければ、合わせる親切は利用者が制御できないお節介になる。
音楽アプリは、この柵を取っ手の形で差し出している。知られているところでは、Spotifyは推薦に使う自分の好み情報から気に入らない曲やリストを直接除き、どの傾向を減らすかを調整できるようにしている。機械が読んだ自分を、自分で直せるようにしたのだ。推薦が外れても利用者が直接修正できれば、一度のずれがすぐ離脱につながることはない。ゲームの最初の画面にAIを入れる際も、同じ取っ手を一緒に設計する。
▶ 自分の画面に当てはめる三つの問い
- AIによって道具だけが変わったのか、原則まで変わったのか。
- 生成された画面が、一般の人の知らない約束をそのまま使っていないか。
- AIに任せても、三つの検問は人が直接行っているか。 一つでも曖昧なら、AIはコストを減らしたのではなく、より滑らかに隠しただけだ。
だから、原則を先に立て、その上にAIを置く
AI時代の最初の体験を組むとき、順序は逆になりやすい。新しい道具を手にすると、その道具で何ができるかから尋ねてしまうが、問う順序は反対だ。まず、この最初の体験で何を実現するのか、どの階層に語るのか、どのコストを減らすのか、どの慣習を検問するのかを定める。原則が立った後で、AIがそれをよりよく実装できる場所を探す。道具に目標を決めさせず、目標に道具の場所を決めさせるのだ。最初の体験にAIを入れるときの第一の問いは、「AIで何をしようか」ではなく、「この原則を実装するうえでAIは本当に優れているか」である。
この決定も測定につながる。AIが合わせた最初の画面が本当によかったかどうかは、合わせていない通常の画面と比べなければ分からない。一部の利用者には意図的にパーソナライズを切った画面を与え、両者を並べて見る。人ごとに異なる画面は測定も検査も難しいと述べたが、この対照群のホールドアウトが、測定の難しさを突破する標準的な解法だ。合わせた画面を受けた人が通常画面の人よりよく残るのか、それとも外れて早く去るのかを比べる。そして、煩わしくて調整を切った人がどれほどいるか、どの傾向の人々が特に合わなかったかを見る。パーソナライズが自慢ではなく検証の対象になった瞬間、AIは初めて、最初の体験を作る信頼できる道具になる。
参考コンテンツ
本章の概念が表れている、他のメディアや分野の事例。
推薦システムの原則
- コールドスタート問題:初めて来た人にはデータがないため、機械もうまく合わせられない。白紙を推し量るという、最初の体験における昔からの難題がそのまま残る。
パーソナライズ製品の一般的なパターン
- Spotifyの「好みのプロフィールから除外」:特定の曲やリストを推薦計算から外す取っ手を曲のメニューに置く。当初はプレイリスト単位で開き、後に個別の曲まで除外できるよう広げ、「そのときだけ聴いた曲」が自分の好みをゆがめないよう直接訂正する。機械が読んだ自分を自分で直せれば、一度のずれがすぐ離脱につながらない。
- フィルターバブル:サービスが好みに合わせて選別するほど、自分の感性の外にあるものに出会えず、見えない泡の中に閉じ込められるという診断だ。調整が精密なほど囲いも強くなるという警告で、推論の外へ出る道を意図的に開けておく根拠になる。
信頼/透明性の原則
- Metaの「この広告が表示される理由」:フィード内の広告にある三点メニューから、なぜこれが表示されたかを直接開いて確認する。どの活動や関心が表示につながったかをトピック別に示し、その場で広告主を非表示にしたり設定を調整したりできる。
ゲームの事例
- 『Hades』のゴッドモード:利用者が有効にすると受けるダメージが減り、死ぬたびに軽減率が少しずつ上がり、行き詰まった人も最後には乗り越えられる。利用者がオン・オフし、程度を調整できる取っ手なので、利用者が制御する調整の一つの模範となる。
残りの参考コンテンツは本章末尾の「第27章付録」にまとめた(単行本では付録Dに収録)。
設計ノート ▶ 自分で試す
私たちのゲームの最初の体験から、AIに任せるとよくなる場所を一つだけ選ぶ。人ごとに最初の画面を合わせる場所でも、利用者と言葉を交わして案内する場所でも、コンテンツをその場で作る場所でもよい。
その一か所について問う。ここでAIが利用者を読み違えたら何が起き、そのずれを私たちはどう察知するのか。そして信頼の柵を三行で書く。利用者はなぜこの画面を受け取ったか分かるか、調整を切れるか、間違っているときに訂正できるか。一行でも空いているなら、その場所にAIを入れる前に柵を立てる。(AIをどの水準まで関与させるか、その危険と倫理をどう扱うかを検討する精密な道具は付録Cにある。)
最後に一行で判定する。AIが道具だけを変え、8階層・コスト・慣習の検問という原則をそのまま支えるなら通す。原則ではなく道具に最初の画面を決めさせていたなら、原則から立て直す。
一行要約:AIは白紙のような初めての人をより早く推し量り、人ごとに異なる最初の画面を作るが、より上手な推測が常に正しいとは限らない。「パーソナライズすれば必ずよい」という仮定は半分だけ正しい。合えばよいが、外れたり人を閉じ込めたりすれば、しないほうがましだ。パーソナライズされた最初は測定も検査も難しく、公平性の危険を抱えるため、なぜ表示するのか・切れるのか・間違えば直せるのかという柵を立てる。何より、8階層・コスト・慣習の検問という原則は変わらず、AIはそれを実装する道具にすぎない。道具に目標を決めさせない。 次章:第1章からここまで、慣れを立ち止まらせ、最初を敷居に分け、利用者を階層に分け、体験のコストと衝突と計器盤をたどり、最後にすべての原則が新しい道具の上でも立ち続けることを見た。散らばった表、問い、決定を一か所に集める番だ。付録Aは設計と利用者の道具を、付録Bは世界と体験の道具を、付録Cは計器盤と参照の道具を、付録Dは章ごとの参考コンテンツをまとめ、他の誰のものでもない、あなたのゲームの最初の体験設計書を完成させる。
第27章付録:参考コンテンツ集
本文の参考コンテンツ節には本章の論証に直結する中核だけを残し、残りをここにメディア別でまとめた。推薦システムの原則から始まり、パーソナライズ製品の一般的パターン、対話型案内、信頼と透明性、道具と目標の順序、道路やホテルなどのオフライン、そして映像とゲームの図へ進む。製品の機能は速く変わるため、ここでは古びにくい原則と失敗の型が表れる事例を中心に選んだ。本章の三つの論点、すなわち、最もパーソナライズが必要に見える最初の出会いが、実はデータ不足で最も合わせにくいというコールドスタートの逆説、パーソナライズ・対話型案内・即時生成それぞれの異なる失敗の型、そして「なぜ表示するか」を知らせ、切れるようにし、間違えば直せるようにする信頼の柵を脇に置いて読めば、各項目の「見るべき点」がどこにつながるか分かる。
推薦システムの原則
- TikTok推薦フィードの初期探索:入ったばかりのアカウントについて分かることは少なく、最初のセッションはほぼ探索で、フィードもあまり合わせられていない。短い動画ごとの滞在時間と指が止まった場所を素早く読み、白紙に最初の一行を引く速度を上げる。見るべき点:コールドスタートを質問せず行動観察で解く速さと、その速さが人を早く閉じ込める可能性の両面。
- 非パーソナライズのフォールバック:何も分からないときは無難な人気項目を先に見せるという原則で、合わせ損ねるより通常の最初の画面がよいと考える。見るべき点:足りない推測に確信の衣を着せないという判断基準が、自分たちの最初の画面にもあるか。
- 登録直後に好みを尋ねる:最初の選択を数個与え、白紙に最初の一行を引く一般的な方法で、第26章の最初の選択と同じ難題を別の手で解く。見るべき点:質問の数と重さがどの線を越えると、白紙を解く道具が再び試験用紙になるか。
- Spotify登録直後のアーティスト選択:初回起動で好きなアーティストを数人以上選ばせ、データのない白紙に最初の一行を引く。そのいくつかの選択でホーム画面と最初の推薦リストをすぐにその人の感性で並べる。見るべき点:最初のいくつかの選択が直ちに画面の調子になる、コールドスタート対策の標準的な実装。
- 協調フィルタリングの「似た人」推論:似た人々の行動から推し量るが、推論が外れれば第一印象から間違う。見るべき点:パーソナライズの失敗は技術的欠陥ではなく推論の本性から始まるため、訂正の取っ手が常に必要になること。
- 一度きりの行動を好みとして固定する推薦:贈り物としてベビーカーを一度買ったら、しばらくベビーカーだけを勧められるような失敗は、どのコマースでも見られる。行動は正直な信号だが、一度の行動をアイデンティティとして固めると、その信号が人を閉じ込める。見るべき点:選択を確定ではなく仮説として読む第26章の原則が機械にも必要であり、「これは私の好みではない」と訂正する取っ手があるか。
パーソナライズ製品の一般的なパターン
- Netflixの作品サムネイルのパーソナライズ:同じ作品でも人ごとに異なる代表画像を並べる。ユマ・サーマン出演作を見た人には、『パルプ・フィクション』のサムネイルにサーマンが映るカットを出すように、最初の画面そのものをその人の感性に合わせて作り直す。見るべき点:同じサービスでも人ごとに最初が違うという本章の出発点を最も明瞭に実装した事例として、合うときと外れるときの振れ幅を同時に見る。
- Microsoft Officeのクリッピー(1997):文書が手紙らしく見えると「手紙を書いているようですね」と割り込み、文脈をたびたび読み違え、同じお節介を繰り返し、切る道も明確でなかったため嫌われ、後の版から姿を消した。見るべき点:なぜ表示するのか、切れるのか、間違えば直せるのかという三本の柱がなければ親切がお節介になることを、生成AI以前の技術がすでに示した。
- Targetの妊娠予測クーポンの逸話:米国の小売店Targetが購買パターンから妊娠を推測して関連クーポンを送り、父親が店より遅れて娘の妊娠を知ったという話が2012年の記事で広まった。逸話の詳細は検証が難しいとの指摘もある。見るべき点:当たったパーソナライズでも、なぜ表示するかが隠れていれば親切ではなく監視と読まれるという、透明性の柱の根拠。
対話型案内の原則
- 航空会社チャットボットの自信に満ちた誤答と賠償判断:カナダの航空会社のチャットボットが、忌引運賃は旅行後に申請できると誤案内し、2024年に現地の紛争解決機関はチャットボットもウェブサイトの一部だから会社が発言に責任を負うとして、差額の賠償を命じた。見るべき点:滑らかな誤答のコストを最後には会社が払うこと、対話型画面を入れるときは誤答の責任設計も同時に行う必要があること。
信頼/透明性の原則
- なぜ表示するかを示す:受け取った画面がどこから来たかを、ぼんやりとでも示してこそ、お節介ではなく親切になる。見るべき点:柵の第一の柱となる一般原則として、自分たちの最初の画面の推薦に出所の一行が見えるか。
- パーソナライズにおける公平性の偏り:よく見てきた集団にはよく合わせ、珍しい集団には合わない偏りが生じ、最初の出会いから人を違って扱うことがある。見るべき点:どの傾向の人々が特に合わないかを分けて測っているか、最初の質が集団ごとに分かれていないか。
道具と目標の順序
- 道具に目標を決めさせない:新技術を手にしても、まず何を達成するかを決め、その上でAIが優れる場所だけを探す。見るべき点:「AIで何をしようか」ではなく、「この原則を実装するうえでAIは本当に優れているか」が最初の問いになっているか。
オフライン/日常
- ナビゲーションの盲信と自動化バイアス:案内を疑わずに従い、通行止めの道や水辺に入り込む事故が各国で報道されてきた。機械の確信に満ちた案内を前に人の疑いが弱くなる傾向は、自動化バイアスとして研究されている。見るべき点:ためらう人の案内より滑らかな機械の誤答が危険な理由、そして初めて来た人ほど疑う知識がないという本章の警告が、道路上でも起きること。
- ホテルコンシェルジュの初来客対応:熟練したコンシェルジュは初めて来た客を断定せず、軽い質問を二、三個して仮説を立て、反応を見ながら推薦を絞り、知らないことは知らないと言って調べる。見るべき点:コールドスタートを扱う人間の原型として、確信ではなく質問から始め、外れればすぐ直す態度が機械案内の基準になること。
映画・ドラマ・アニメーションの図
- 映画『マイノリティ・リポート』(2002)のGAP店舗場面:店のスキャナーが主人公の目を読み、「ヤカモトさん、ようこそ」と過去の購入について尋ねる。しかしその目は他人から移植されたもので、システムは確信を持って彼を別人として扱う。見るべき点:正しく読んだという確信と、実際に正しく読めたかは別の問題であり、確信に満ちた誤認がどんな扱いを生むか。
- ドラマ『ブラック・ミラー』「ジョーンはひどい人」(2023):配信会社が加入者一人ひとりを主人公にしたドラマを自動生成して公開する。人ごとに異なる最初を機械が作る未来の極端を示しつつ、生成された「私」が実際の私とずれたときの裏切られた感覚も描く。見るべき点:即時生成を突き詰めると何になるか、外れた生成が請求する信頼のコスト。
- アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』(2012)のシビュラシステム:全市民の潜在犯罪係数を走査し、人を数値で分類して扱う。だが、分類が外れる人がおり、犯罪の瞬間にも低い数値と判定される例外が存在する。見るべき点:精密な分類ほど、一度外れたときのずれが大きいという警告を、分類が人の扱いを決める世界へ広げて見る。
ゲームの事例
- 『Left 4 Dead』(2008)のAI Director:決まった場所に敵を置かず、そのプレイの体力・弾薬・進行・緊張度を読み、敵と物資を違って配置する。同じマップでも人ごとに違う体験になるよう、その時々の状況を推測して作る。見るべき点:人ごとに異なる体験を作ることは生成AI以前からゲームに存在したが、読む対象が好みではなくその瞬間の状態であるという違い。
- 『Forza』シリーズのDrivatar:実在のプレイヤーがブレーキを踏み、コーナーを曲がる癖を学習し、その人のように運転するAIの分身を作って他人のゲームに登場させる。見るべき点:パーソナライズが人を模倣するところまで進むと、模倣された自分が他人の最初の体験に現れるという新しい責任が生じること。