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KIM DONG-EUN · FTUE:初回ユーザー体験 (30 章)

第5章 体験は体験に基づく:先行類似体験

キム・ドンウン WhtDrgon. · 章 5

第5章 体験は体験に基づく:先行類似体験

なじみは無料の資産だが、約束まで一緒についてくる。

なじみのあるアイコンを一つ借りたとしよう。五つ星の評価、再生ボタン、ショッピングカートの形。だが一般の人は、その形についた別の約束を通して画面を読む。星を見れば「信頼できるレビュー」を期待し、再生ボタンを見れば「無料」を期待する。形だけを借りたつもりでも、ユーザーが受け取ったのは、私たちが守るつもりさえなかった約束なのだ。

人は初めて見る画面を、なぜあれほど速く判断できるのか。

縦長の動画が流れれば、誰に教わらなくても親指で上へスワイプする。右上に歯車があれば、そこが設定だと信じる。赤い丸の中に数字があれば、未読がその数だけたまっていると受け取る。誰もこれらを個別に習った記憶はないのに、みんな知っている。

第1章では、ユーザーは手ぶらで来ないと述べた。この章では、その手ぶらではないという事実を資産に変える。ユーザーが私たちのゲームを起動する前から、頭の中には何百もの画面、操作、約束が詰まっている。私たちはそれを無料で借りることも、知らずに逆らって損をすることもできる。その手の持ち主が誰かは第6章で問う。ここではまず、手に持っているものを調べる。

「YouTubeのように見えるものは無料だと期待される」。本書が繰り返す文である。再生ボタンのような三角形、横長のサムネイル、下へ続くおすすめ一覧。こうした形を見れば、ユーザーはお金を払おうとは思わない。YouTubeが無料だったからだ。形一つが価格まで先に決めてしまう。最初の体験設計は、この無意識の期待を読むことから始まる。

キャラクター収集ゲームの図鑑、一行も説明しない画面

一つの仮想ゲームを最後まで追ってみよう。本書が繰り返し例にする、短い動画でキャラクターと出会い、集め、会話するモバイルゲームだ。このゲームには、集めたキャラクターを見せる「図鑑」画面がある。

企画チームの最初の案は、すっきりして新しかった。キャラクターを丸いノードとして浮かべ、線で結び、星座のような絵にした。デザイン会議では新鮮だと好評だった。だが新規ユーザーテストに入れると、人々はその画面の前で止まり、点と線をしばらく眺めてから「ここは何をするところですか」と尋ねた。美しい絵が質問を生んだのだ。

第2案は正反対へ進んだ。画面を格子状に区切り、まだ集めていないキャラクターは黒いシルエットとして空けておき、集めるとそのマスにカラー画像が入るようにした。今度は誰も質問しなかった。画面を見た瞬間に手が先に動き、「ああ、この空欄を全部埋めればいいんだ」と理解した。説明を一行もつけずに目標が伝わった。

何が変わったのか。第2案はポケモン図鑑に似ていた。正確には、ポケモンだけでなく、シールブック、切手帳、アルバム、ゲーム内の数え切れないコレクションUIが何十年も磨いてきた「空欄を埋める」という約束を、そのまま借りたのだ。ユーザーはその約束をすでに身体で知っている。空欄は埋めるためにあり、埋めれば気持ちよく、全部埋めれば終わりだと知っている。なじみのある殻一つが、長いチュートリアル一ページを丸ごと代替したのである。

この約束はゲームの外でも同じように働く。コーヒーアプリで星を集めて一列を埋めれば無料ドリンクが出る。スタンプ欄が空いていれば、わざわざもう一杯買ってでも埋めようとする。語学学習アプリDuolingoが連続学習日数を炎一つで示し、途切れさせないよう引きつけるのも、同じ約束の変奏だ。その炎の一日分を失いたくないため、毎日アプリを開く人が少なくないとされる。空欄を埋めたい気持ち、埋めた列を切りたくない気持ちは、ゲーマーだけのものではない。誰もが持つ先行体験である。私たちの図鑑は、この使い込まれた約束に乗ったのだ。

MEJEアイドンワールドでも同じことが起きる。ファンが推しに似たアイドン(子犬)と出会い、カスタマイズする画面は新機能だが、そのファンにとって新しい体験ではない。すでに推しのフォトカードを集め、手帳やスマートフォンを推し仕様に飾り、SNSで推しの動画を追い、グッズを集めてきた。アイドンの耳の形を選び、色を塗り、そばに置くことは、その手にすでに入っている動作だ。私たちは飾り方を教えるのではなく、ファンがすでに知っている飾り方を、私たちの世界でもう一度させるだけである。

ユーザーは白紙ではない

ここで、なじみのある通念を一つ止めよう。新規ユーザーはしばしば「白紙」と呼ばれる。何も知らないきれいな紙であり、だから最初からすべて描き込まなければならない対象だという。親切な言葉に聞こえるが、間違っている。ユーザーは白紙ではなく、すでにびっしり書き込まれた紙だ。私たちが何を書いても、先にあった文字の上へ重ね書きすることになる。

その紙に先に書かれているものを、本書では先行類似体験と呼ぶ。ユーザーが私たちのゲームに来る前、別のメディアで似た形、操作、報酬を経験して作った期待の束である。YouTubeやショート動画から来た人、SNSから来た人、ウェブトゥーンから来た人、メッセンジャーから来た人、ショッピングモールから来た人、ファンダムから来た人、他のゲームから来た人、テーマパークのようなオフライン体験から来た人。出身地ごとに持ってくる期待が異なる。

この期待を四つに分けると設計が明確になる。メディアごとに持ち込む期待は何か、そこから何を借りるか、そのメディアが定めた料金はいくらか、軽々しく破ってはならない禁忌は何か。

ショート動画から来た人を例にしよう。その人が持ち込む期待は「指を離せば次が自動で出る」であり、借りるものは自動再生と即時性である。そのメディアがつけた料金は0円に近い。動画は無料で際限なく出てきたからだ。破ってはならない禁忌は待ち時間であり、ショート動画から来た目には、3秒のロードが30秒に、スキップできないイントロが30年に感じられる。この人をつなぎ止めるには、最初の画面がショート動画と同じくらい素早く何かを見せなければならない。

ウェブトゥーンから来た人は異なる。持ち込む期待は「上へスワイプすれば物語が続く」で、借りるものは縦スクロールと演出の呼吸、料金は一話ほどの軽い時間である。禁忌は流れを切ることだ。没入して下へ読み進めている最中にチュートリアルのポップアップが横から飛び出せば、物語を切られた読者はまず苛立つ。

コマースから来た人はさらに異なる。持ち込む期待は「比較し、レビューを読み、決める」なので、慎重であると同時に疑い深い。借りるものは星、レビュー、ランキングのような信頼装置だが、この人はすべてのレビューを同じ重さでは信じない。Amazonがレビューの横に「確認済みの購入」表示をつける理由がここにある。実際に買って使った人の言葉と、ただ書かれた言葉を分けて見せる装置だ。コマースから来た人は、こうした「検証された痕跡」を目で探すことにすでに慣れている。だから私たちの画面がキャラクター人気やユーザー評価を示すときも、それが本当に誰かの痕跡だと読めるようにしなければならない。だが、同じ信頼装置が禁忌としても働く。始めた途端に決済画面を突きつければ、ショッピングサイトの決済段階のように冷静に評価され、「わざわざ買う必要がある?」が先に出る。

ここで一つ明確にしておこう。先行類似体験を借りるとは、他のゲームの画面を写せという意味ではない。借りるのはピクセルではなく、ユーザーの頭の中にある期待である。図鑑画面がポケモンと同じ見た目である必要はない。「空欄を埋める」という約束だけを正確に借りればよい。同じ約束に私たちだけの殻を着せること、それが模倣と借用の分かれ道だ。

何を借り、何を新しく与えるか

借りられるなじみがこれほど多くても、すべてをなじみ深くすれば、別のゲームの複製品になるだけだ。ユーザーが私たちを選ぶ理由が消える。だから最初の体験設計における中心的な決定は、一つに絞られる。何を借りて説明を減らし、何を新しく与えて私たちを私たちらしくするのか。

規則は単純だ。操作と画面の文法はなじみのあるところから借り、本当に新しいもの、私たちだけが与えられる一つに、ユーザーの集中をすべて集める。借りた殻が説明を消すぶん、ユーザーの認知予算が残る。その予算を一つの新しさに注ぐのだ。三つはなじみ深く、一つは見慣れなく。あらかじめ言うと、この三対一という比率は修辞であり、原則は「新しいものは一つだけ」にある。人の認知予算は、新しさ一つを消化するだけでも厳しいからであり、三という数字に特別な根拠はない。なじみは必ず壊すべき敵でも、必ず従うべき正解でもない。借りる資産と新しく与える武器を分ける刃である。

借用には罠もある。なじみのある形を借りれば、そのメディアの期待まで丸ごとついてくるからだ。五つ星を借りれば「信頼できるレビュー」という期待がついてくる。その場所に偽物らしい賛辞だけを並べれば、信頼は一瞬で壊れる。再生ボタンを借りれば「無料」という期待がついてくる。押した途端に決済を求めれば、裏切りとして返ってくる。借りた形は借りた約束を連れてくる。約束を守れないなら、その形は借りないほうがよい。

ここには非対称性が一つ隠れている。借りた約束を破ることは、約束そのものをしないより悪い。ユーザーはそれを「不在」ではなく「裏切り」として経験するため、星の下に並ぶ偽の称賛は、星がない画面よりも信頼を削る。だが同じ非対称性は反対方向にも働く。借りた約束を意図的に超過履行すれば、その差額が無料の感動になる。再生ボタンが連れてきた「無料」の期待に、無料以上のものを与える。空欄が約束した手触りに、予想外のひとつかみを加える。だから借りる約束を選ぶときは、守れるものを超えて、意図的に超過履行できる約束を選んで借りることが、最も安い最初の感動を作る。

借りたなじみはすべて同じ重さではない。もう一度細かく分けると、そのまま借りる慣習、形だけ借りて中身を変える慣習、完全に捨てる慣習の三つになる。縦スクロールや空欄埋めのようにユーザーが身体で知る約束はそのまま借り、私たちのユーザーが最初から拒否感を持つ慣習は借りずに捨てる。中央、つまり形だけを借りて中身を入れ替える慣習が最も難しい。

レベルアップとデイリー出席を検問所に立たせてみよう。四つを問う。第一に、この慣習は何を当然視するか。 どちらも「真面目に繰り返せば報酬が積み上がる」を約束として敷き、ゲーマーはRPGとオンラインゲームでその約束を身体に覚えた。第二に、一般の人もその前提を共有するか。 しない。レベルという数字がなぜ上がるべきか、毎日ログインしてスタンプを押すことがなぜ報酬なのかは、ゲームをしていない人には約束されたことのない規則だ。第三に、どんな体験料金を課すか。 デイリー出席は「来なければ損をする」という義務感を料金として課し、面白さではなく借金のように感じさせる。レベルの数字は、最初の画面に意味のない記号を一行増やす。第四に、何に置き換えるか。 形は借りても中身を入れ替える。「数字が上がる」という殻の代わりに、「キャラクターともっと親しくなる」のように、私たちの世界が実際に与えられる報酬を入れる。空欄を埋める手触りはそのまま借り、その欄の中身だけを私たちのものに変える。

目の利く読者なら、ここで問い詰めるだろう。図鑑の話ではDuolingoの炎を使い込まれた約束だと持ち上げたのに、ストリークもデイリー出席も同じ損失回避で働く。なぜ後者だけを借金と断罪するのか。基準は所有権の方向にある。ストリークはユーザーが自分の行動で積み上げた記録であり、システムはその記録が途切れないよう守る側だ。失いたくないものは自分が作った歴史である。一方、デイリー出席報酬はシステムが一方的につるした餌だ。ユーザーが積み上げたものではなく、システムが振っているものだ。来なければ失うものも、自分の歴史ではなく、他人が約束した景品である。同じ損失回避でも、自分の記録を守りに来る足取りと、他人の餌に引かれて来る足取りは違って感じられる。後者だけが借金の匂いを放つ。借りた慣習を判定するとき、この問いを加えよう。失いたくないそれは、ユーザーが積み上げたものか、私たちがつるしたものか。

ここで忘れてはならないことがある。既存ゲームから来た人も、先行体験を一包み持ってくるが、そのなじみが助けではなく誤解になることもある。その人が私たちのゲームで過ごした時間より、他のアプリやゲームで過ごした時間のほうが比べものにならないほど長いからだ。そのため、私たちの画面も「いつものやり方」で動くと信じ、意図的に変えた地点で最も大きくつまずく。この事実を反転させれば、設計者の主権という幻想が壊れる。あなたのゲームのチュートリアルの大部分は、YouTube、ウェブトゥーン、メッセンジャーがすでに行ってくれた。あなたは画面文法の大部分を他社から借りて使っており、その賃料が約束の履行なのである。

もう一つ。ユーザーは「次に何が来るか」まで、あらかじめ頭の中に書いておく。この予測を、心理学で長く使われてきた名前のままスクリプトと呼ぼう。動画を見れば次の動画を、空欄を見れば埋める報酬を、レベルアップ画面を見ればさらに強くなった次のステージを期待する。借りた殻は、このスクリプトまで一緒に連れてくる。だから借りた画面の後にユーザーが期待する場面を、実際に準備しなければならない。空欄を見せたなら、埋める手触りをすぐ返す。その手触りが空なら、借りた約束を破ったことになる。

▶ 自分の画面に当てはめる三つの問い

  1. 借りたなじみについてきた約束まで、私は守っているか。
  2. この慣習をそのまま借りるか、形だけ借りて改造するか、完全に捨てるかを決めたか。
  3. 自分がなじみ深いと信じているその慣習を、一般の人も本当に共有しているか。

三つの問いのうち一つでも詰まれば、そのなじみは資産ではなく罠として働く。

参考コンテンツ

この章の概念が表れている、他メディアの事例。

ビデオゲーム

  • 『どうぶつの森』博物館の図鑑:集めていない魚、虫、化石は空の展示スペースとして残り、寄贈するとその場所が埋まる。初めて見た人でも、説明なしに「空欄を全部埋めればよい」という目標を読める。

一般アプリ

  • Starbucksのスターリワード:スタンプ欄を埋めれば無料ドリンクがもらえるという空欄埋めの約束が、ゲームの外でも同じように働く。
  • Duolingoの連続学習の炎:積み上げた日数を失いたくない損失回避を炎一つで可視化し、長い連続記録を失いたくないため毎日アプリを開く人が少なくないとされる。

ウェブトゥーン

  • 縦スクロール連載:上へスワイプすると物語が続くという約束を、ウェブトゥーンから来た人は身体で知っている。

コマース/現実の業務手順

  • Amazonの「確認済みの購入」バッジ:実際にその商品を買った人のレビューだけにラベルをつけ、すべてのレビューを同じ重さでは信じないコマース出身のユーザーに、本物の痕跡を分けて見せる。

残りの参考コンテンツは、この章末の「第5章付録」にまとめた(単行本では付録Dにまとめられる)。


設計ノート ▶ 実際にやってみる

第1章の終わりで「なじみの一覧20個」を書いた。今度は、そのうち借りると印をつけたものだけをもう一度見る。

一項目を選び、三行で書いてみよう。これはどのメディアから来たなじみか。そこでユーザーが持ち込む期待を一文で言うと何か。その期待を私たちは実際に守れるか、それとも借りないほうがよいか。

三行目で「守れない」と出たら、そのなじみは資産ではなく罠だ。借りずに取り除く。

もう一行加える。その約束を私たちのゲームでそのまま守るか、形だけ借りて中身を変えるか、完全に捨てるか。 三つのどこに印をつけたかが、借りたなじみを資産にするか、誤解にするかを分ける。

この作業は付録Aの「先行類似体験借用表」(メディア × 期待 × 借りるもの × 危険)へ育つ。そして第10章で、「このキャラクターを好きになる人はいったいどこから来たのか」という問いを通し、キャラクターごとにもう一度交差する。

借りた形ごとに約束を守れるかを確かめ、守れない約束ならその形を取り除く。

一行要約:ユーザーは白紙ではなく、すでにびっしり書き込まれた紙である。他メディアから持ち込む期待をメディア別に分け(期待・借りるもの・料金・禁忌)、操作と画面を借りて説明を消し、本当に新しい一つへ集中を集める。ただし、借りた形は借りた約束を連れてくるので、守れない約束は借りない。 次章:借りる対象は決まった。では、それを受け取る人は誰か。一人に見えるユーザーが、実は複数の層として存在するという話へ進む。


第5章付録:参考コンテンツ集

この一覧は、第5章の道具、すなわちユーザーが他メディアから持ち込む先行類似体験を期待・借りるもの・料金・禁忌に分け、借りた形についてくる約束を守れるか検問する作業を、複数のメディアで確かめるものである。ビデオゲーム、モバイル・アプリ・サービス、映像・漫画・音楽、オフライン・日常に分けた。各例について、「このなじみはどこから来て、何を約束し、破ればどんな裏切りになるか」を、本文の借用検問(そのまま借りる、形だけ借りる、捨てる)と組み合わせて見るとよい。

ビデオゲーム

  • Doom(2016)のFPS標準操作:他の一人称シューティングを遊んだ人のWASDとマウス視点操作の手癖をそのまま受け入れ、操作説明を消す。見るべき点:ジャンル標準をそのまま借り、説明コストを0にする借用の基本形である一方、その標準を知らない人には何も消してくれないという限界まで見る。
  • Spec Ops: The Line:2012年の作品で、ありふれた軍事シューティングのなじみ深い文法をそのまま借りて期待を敷き、その後、白リン弾の場面で期待を正面から裏切って衝撃を作る。見るべき点:借用が説明の節約を超えて演出の武器になる場合として、裏切りの衝撃が借りたなじみの大きさに比例することを見る。
  • PlayStation日本版の○決定・×キャンセル:欧米版とは反対に敷かれたプラットフォーム標準で、PS5で日本も×決定に統一されると、長年染みついた手癖が最も大きくつまずいた。見るべき点:プラットフォームが作った手癖はユーザーの意思と関係なく身体に残り、標準が変わる瞬間が最も危険になることを見る。
  • モバイルゲームの仮想ジョイスティック:タッチ画面上にコンソールコントローラーのスティック形状を描いた操作方式で、コントローラーを使った人には無料のなじみだが、触れたことのない人には別に学ぶべき外国語になる。見るべき点:同じ借用でも出身地によって資産にも負担にもなるため、「なじみ深い」の主語が誰かから問う必要がある。

モバイル・アプリ・サービス

  • あるデーティングアプリの右スワイプ:一つのアプリが広めた手振りが「好き、選ぶ」という意味を得て、ショッピング、求人、語学学習アプリまで、その約束をそのまま借りて使う。見るべき点:一製品が作った手振りが数年で業界の共通語になる速さと、その手振りに付着した元の文脈、つまり直感的な好き嫌いの判断まで一緒に借りられることを見る。
  • 引っ張って更新:初期のTwitterアプリから広まったとよく言われる手振りが、多くのアプリへ伝わって標準となり、別に習ったことがなくても誰もが知る画面文法として借りられている。見るべき点:画面文法の大半は他者が教えておいたものだという本文の賃貸比喩を、最も手になじんだ動作一つで確かめる。
  • 初期iOSのスキューモーフィズム:メモアプリの黄色いリーガルパッド、iBooksの木製本棚、Game Centerの緑のフェルトのように、現実の物の形をそのまま借り、使ったことがある人が画面をすぐ読めるようにした。見るべき点:借用元は他のアプリではなく現実の物にもなり得ること、そして誰もが画面に慣れた後には、その借用が古くささに変わり捨てられた寿命まで見る。
  • フロッピーディスクの保存アイコン:フロッピーディスクが消えて久しいのに、保存ボタンは今もその形である。実物を見たことがない世代も、「この形は保存」という約束だけを受け継いで使う。見るべき点:記号が元の物より長く生き残ること、先行類似体験が実物体験だけでなく画面体験でも蓄積することを見る。
  • ハンバーガーメニュー:三本線のメニューアイコンは作り手の間では標準だが、メニューを中に隠すと、一般ユーザーの発見率と利用率が下がるという分析が知られている。見るべき点:作り手だけに通用する約束を全員の常識と勘違いすることが、ゲーム外のデザインでも同じように起きるという、ジャンルの呪いのアプリ版として見る。

映像・漫画・音楽

  • 少年漫画のトーナメント編:一回勝負のトーナメントで、次第に強い相手と出会いながら新キャラクターと成長を集中的に見せる構造なので、読者は対戦表を見ただけで次の展開を予測できる。見るべき点:読者の頭にあるスクリプト、つまり次に来る場面の予測を借りて説明を減らし、その予測を少しひねる瞬間が最大の面白さになるところまで見る。
  • 回帰・悪役令嬢転生ものの約束された導入:主人公が知っている原作展開を使って破局を避ける構造なので、読者も最初の場面から「主人公は未来を知り、運命を変える」というスクリプトを敷いて読む。見るべき点:ジャンル文法そのものが先行類似体験の束となり、第1話の説明コストをほぼ0にする圧縮を見る。
  • Jeff Buckleyの「Hallelujah」:Leonard Cohenの1984年の原曲を借り、歌う節と編曲を変えた解釈で、原曲と並んで評価される。見るべき点:借りたもの(曲)と新しく与えたもの(解釈)の配合によって、形を借りながら中身を変える借用が模倣ではなく創作になる分かれ道を見る。
  • ジャンル慣習(西部劇やフィルム・ノワールの約束された場面):観客が持ち込む期待を借りて説明を減らし、意図的に外れると新鮮さが生まれる。見るべき点:慣習は壊す瞬間にも資産であること、ただしその新鮮さは慣習を知る観客にしか働かないという条件を見る。
  • コールドオープンの次に来るオープニングシーケンス:強烈な最初の場面の後にタイトルとオープニングが来る順序を視聴者はすでに知り、そのスクリプトどおりに次の場面へ備えて呼吸を合わせる。見るべき点:ユーザーが次に来るものを知っているとき、その予測に応えること自体が安らぎになることを見る。
  • Pixar『Up』のオープニングモンタージュ:ほとんど台詞を使わず、ある夫婦の一生を4分余りに圧縮し、観客が本編のあらゆる行動を読むための感情的な土台を、一言もなく先に敷く。見るべき点:本編が頼る先行体験を作品内で直接作る場合として、借りる体験がなければ最初の数分で作ることもできるという応用を見る。
  • Scream:Wes Cravenによる1996年のホラー映画で、登場人物がホラー映画の規則を口にするほど観客のジャンル知識を前提とし、その期待を最初の場面からひねって衝撃を作る。見るべき点:借りた慣習はひねるときにも資産になることと、そのひねりが慣習を知らない観客には働かない限界をあわせて見る。

オフライン・日常

  • Build-A-Bear Workshop:客が自らぬいぐるみに綿を詰め、服を着せ、出生証明書まで作ることで、自分の手で作ったものをより大切にする気持ちを引き出す。見るべき点:人形遊びと養子縁組の書類という、客がすでに知る二つの体験を借り、一つの店舗動線へ編み込んだ借用の構成を見る。
  • サイコロ、駒、マス移動:誰もが知るボードゲームの基本文法を借り、新しい規則一つだけに集中させる。見るべき点:「三つはなじみ深く、一つは見慣れなく」という本文の配合原則が、ボードゲームデザインでは古くからの基本であることを見る。
  • 電源記号、再生三角形、一時停止の二本線:機器を越えて通用する約束なので、初めて見る家電でもすぐ読める。見るべき点:メディアと機器を越えて標準となった記号は、最も安い借用資産であり、別の意味に使うことが最も高価な失敗になることを見る。
  • 蛇口の左温水・右冷水のような生活慣習:身体に染みた約束に逆らえば、毎日使う物までわかりにくくなる。見るべき点:約束違反がどれほど小さくても、その費用をユーザーが毎回支払い、慣習違反の料金が繰り返し請求されることを見る。
  • QWERTY配列:初期のタイプライター時代に固まった配列は、より効率的だと主張する代替配列が登場しても変わらず、スマートフォンの画面まで続いた。代替案が本当に効率的だったかにも後から反論がつき、論争として残る。見るべき点:先行体験の慣性がどれほど強いか、新しい文法がなじみに勝てないとき、何が不足していたかを考える。
  • 信号機の色の約束:赤は停止、緑は進行という約束が道路から画面へ渡り、エラーメッセージが赤く、確認ボタンが緑のとき最も速く読める。見るべき点:メディアを越えて借りられる約束の最大の原型であり、その約束に反した画面、たとえば赤い確認ボタンの前でユーザーがためらう理由を見る。