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KIM DONG-EUN · FTUE:初回ユーザー体験 (30 章)

第3章 「最初」とは何か

キム・ドンウン WhtDrgon. · 章 3

第3章 「最初」とは何か

あなたのFTUEは、アプリを起動する前からすでに始まっている。

人は広告やサムネイル、友人の言葉によって、すでに期待を抱いて入ってくる。友人が何気なく口にした「このゲーム、面白いよ」という一言や、ストアでちらりと見た一枚のスクリーンショットが、頭の中に私たちのゲーム像を描いているからだ。だから初回起動画面だけを見つめるチームは、ユーザーがその画面にたどり着く前にすでに心を決めた、その瞬間を丸ごと見落とす。

「第一印象は重要だ」。誰もが知っている。ところがゲームの「第一印象」が正確にいつ生まれるのかと問うと、答えは分かれる。

最初の画面だろうか。もっともらしい。だがユーザーはその画面を見るはるか前、友人から「このゲーム、面白いよ」と聞いた瞬間や、ストアで三枚のスクリーンショットをめくった瞬間、ダウンロードボタンを押してロードを待つ瞬間から、すでに判断を始めている。そのすべての地点で、期待は少しずつ積み上がり、あるいは削られる。「第一印象」は一点ではなく、何度も更新される連続した判断なのだ。

ここで立ち止まって考えるべき言葉が「最初」、FTUEのF、First-Timeである。ファーストタイムがあるならセカンドタイムもあるはずだが、その「タイム」はどのように区切られるのか。私たちが「最初」とひとまとめにしている塊の中には、実は性格の異なる複数の「初めて」が含まれており、一点として見ていては設計できない。「D1が低い」という結果だけを手にしながら、いったいどの「初めて」で人が漏れているのかを特定できない。この章では、その一点を十一の敷居に分解する。その敷居の上でユーザーが経験する「体験」とは何かという問いは、第4章が引き継ぐ。

どこで脱落したのかわからないファネル

一つの場面を見てみよう。実際のデータではなく、仮想の数字である。あるモバイルゲームに一日一万人の新規流入があるとしよう。広告を見てストアに入った人が一万人。そのうちインストールした人は四千人。インストール後、実際にアプリを開いた人は三千人。チュートリアルを最後まで見た人は千五百人。翌日にもう一度起動した人は三百人だ。

一万人が入り、三百人が残った。このファネルを見てチームが「コンバージョン率が低い」と嘆くのは簡単だ。難しいのは、「どの段で最も多く漏れたのか」を見極めることである。一万人から四千人に減った区間、つまりストアページを見たもののインストールしなかった人と、四千人から三千人に減った区間、つまりインストールしたのに起動しなかった人では、問題がまったく異なる。前者はストアのスクリーンショットと第一印象の問題であり、後者は容量や権限要求、初回ロードの問題だ。二つを同じ「第一印象の問題」にまとめれば、スクリーンショットを百回直しても、漏れている場所は変わらない。

「最初」を一点として見ると、こういうことが起きる。ファネルの段を細かく分けなければ、どこが漏れているのかわからないまま見当違いの場所をふさぐことになる。だから私たちは「最初」を、手でつかめる単位に分けなければならない。

十一の敷居、三つの局面

本書では「最初」をT0からT10まで、十一の敷居に分ける。十一個を一度に覚えるのは難しいので、ユーザーがゲームに出会う前、最初のセッション内、そして定着する間という三つの局面にまとめて見る。この三局面に沿ってユーザーの心がどう動くのか、文章でたどってみよう。

第一の局面はゲームを起動する前である。 ユーザーはゲームを実行するずっと前から、友人の推薦やコミュニティの投稿、広告によって初めて名前を聞き(T0、最初の口コミ)、私たちと出会う。ここで真っ先に植えられるものは期待だ。次にストアのサムネイルやトレーラーを見て(T1、最初の露出)、一目で「何のゲームに見えるか」を判断し、ジャンルや価格、面白さを予測する(T2、最初の期待)。「ああ、放置系なんだ」「無料だろう」「かわいいコレクションものだ」。この予測はそのまま約束となり、後に実際のゲームと比べる基準線になる。ゲームをまだ一秒も遊んでいないのに、ユーザーの頭の中にはすでに私たちのゲーム像が描かれている。

第二の局面は最初のセッション内であり、最も密度が高い。 ダウンロードし、起動し、ログインし、権限を許可し、ロードを待つ間(T3、最初の進入)、開始コストが高ければここで漏れる。この最初の進入には、ユーザー情報がまったくない状態で何を先に見せるかを決めるコールドスタート問題も伴う。最初のいくつかの質問で好みを聞く、あるいは最も安全な初期値を提示するといった方法で解く(AIによる解法は付録C)。無事に入ると、最初の画面から「これは何のゲームか」を認識する(T4、最初の認識)。そして初めて何かを押したり動かしたりするが(T5、最初の操作)、押す理由がなければ指は止まる。押すとシステムが反応し(T6、最初の反応)、自分の行動が世界に届いたという感覚が生まれる。さらに進むと、初めて間違え、行き詰まり、あるいは負ける(T7、最初の失敗)。ここで、もう一度やりたくなる失敗か、ただ腹立たしいだけの失敗かが分かれる。そしてついに中核作業を初めて完了して報酬を受け取り(T8、最初の報酬)、「ああ、こういうものなんだ」とわかる。この瞬間には固有の名前がある。

アハ・モーメント(Aha moment)。 ユーザーが製品の中核価値を初めて実感する瞬間である。メッセンジャーなら友人に最初のメッセージを送り、返事が来た瞬間。動画編集アプリなら最初の動画を作った瞬間。ゲームなら最初の戦闘に勝つ、あるいは最初のキャラクターを完成させる瞬間がそれに当たる。アハ・モーメントに到達したかを測る指標を**アクティベーション(Activation)**と呼び、登録者数やダウンロード数よりはるかに重要な数字である。ダウンロードが一万件あっても、アハ・モーメントに到達した人が千五百人なら、ゲームの最初の面白さを実際に味わった人は千五百人しかいないからだ。

実際、多くのサービスが自らのアハ・モーメントを一つの行動として明確に定め、そこまでユーザーを連れていくことに集中したとされる。協業メッセンジャーのSlackは一つのチームがある程度メッセージを交わした時点を、Facebookは登録初期に一定数の友達を作った時点を、「ここを越えれば残る」という基準線にした例としてよく語られる。正確な数字はサービスや時期によって異なるが、要点は同じだ。漠然とした「良い体験」ではなく、「どの行動を一度させれば、その人は中核価値を実感するのか」を一つに特定する。私たちのゲームにもその一行動がある。最初のキャラクターを完成させることなのか、最初の協力プレイを経験することなのかを先に明確にしてこそ、その地点まで設計を集中できる。

もう一つ。アハ・モーメントまでにかかる時間を**価値到達時間(Time-to-value)**と呼ぶ。最初の面白さまでが長いほど途中で漏れる人が増えるため、最初のセッション設計における大きな目標の一つは、この時間を短くすることである。長い会社ロゴ、スキップできないイントロ、延々と続く規約同意は、すべて価値到達時間を伸ばす障害だ。

第三の局面は定着である。 最初の面白さを見たユーザーが、初めて自分の好みを表したり、他人の痕跡を見たりしながら(T9、最初の選択とソーシャル)、キャラクターをカスタマイズし、友人の記録を確認し、初めて何かを共有する。そして次のセッション、翌日、翌週に戻ってくる(T10、最初の再訪)。戻る口実があったかどうかがここで決まり、指標ではD1、D7に当たる。最初の体験の終着点はここ、もう一度戻ってきたその瞬間だ。T10はFTUEの境界(T8)の外にあるが、そこで採点される種は境界の内側でまかれる。戻る理由づくりは最初のセッションが終わる前に始める必要がある。つまり最初の体験はT8で終わるのではなく、T10で採点される。決済のような事業上の出来事は最初の体験の一部ではなく、ずっと後の話であり、本書後半のダッシュボードの章で別に扱う。

ここで一つ明確にしよう。FTUEの核心はT1からT8、最初の露出から最初の報酬までであり、定着の二つの敷居(T9、T10)が、その最初の面白さを関係と再訪へつなぐ。初日から財布を開かせようとして、最初の面白さを与える機会を逃すのは、最初の体験設計で最もありふれた失敗である。この失敗は無知から生まれるのではない。たいていは指標の所有権争いから生まれる。マーケティング部門と収益化部門は、自分たちの報告書に記録される初日売上を見たがり、その圧力が最初の報酬(T8)の前に決済ポップアップを立てる。決済は敷居ではなく、良い最初の体験が生む出力である。出力を入力の位置に差し込んだ瞬間、ファネル全体が狭まる。誰の数字を最初の体験の成績表にするのかという争いは、第22章から第24章のダッシュボードの議論で正面から扱う。(十一の敷居すべてを自分のゲームに対応させる空白の地図は付録A。)

作業上の定義で整理すると、FTUEはT1からT8、NUXはT3からT10、UXはT0から果てしなく続く。NUXをT8ではなくT3からとするのには理由がある。定着は最初の面白さの後に始まるのではなく、インストールの瞬間から採点されるからだ。進入が険しく、最初の出会いの品質が低ければ、明日戻る確率はその場ですでに削られる。反対に、滑らかな最初のセッションは再訪の種を先にまく。したがって二つの区間はT3からT8まで重なるが、重なるからといって責任まで混ざれば、第2章で引いた責任分担が崩れる。そこで一つの規則を置く。重複区間(T3~T8)で漏れる問題の一次責任はFTUEにあり、NUXが主導権を握るのはT8以降である。 最初のセッション内で人が離れたら、まずFTUEを疑う。最初の面白さまで到達したのに翌日来なければ、そのときNUXを疑う。素早く説明する必要があるなら、三つの局面(ゲーム前、最初のセッション、定着)だけに縮めてもよい。ただし、どこが漏れているかを特定するときは、必ず十一の敷居に戻る。この十一の敷居、T0からT10までが、本書で「最初」を分ける正本の座標である。後に決済や売上のような事業上の出来事が登場しても、それは敷居ではなく、ずっと後に生じる出力である。「最初」のはしごは常にT10で終わる。

敷居ごとに潜むゲームの常識

敷居を時間の段階としてだけ読めば、半分しか見ていない。各敷居は実のところ、ゲームのジャンル慣習が新規ユーザーと初めてぶつかる接点でもある。最初の認識(T4)には「これは何のジャンルに見えるか」が関わっており、一般の人が最初の画面を「RPG」と読むか「着せ替えアプリ」と読むかによって、期待するものも次に押す場所も変わる。最初の操作(T5)に隠れた「どの操作慣習を要求するか」という問いは、仮想ジョイスティックや長押しのようにゲーマーには当然の手つきも、初めて来た人には学ぶべき外国語であることを示す。最初の報酬(T8)に含まれる「どの報酬文法を約束するか」も同じだ。レベルアップのポップアップ、三つ星、ガチャの演出は、ゲーマーには達成の合図でも、一般の人には意味のわからない画面効果として通り過ぎる。だから敷居ごとに、もう一度問う必要がある。ここでユーザーがぶつかっているのは時間の壁なのか、それともその人が学んだことのないジャンルの約束なのか。

この二つ目の読み方が重要なのは、同じ敷居で漏れていても、両者の処方が正反対だからである。時間の壁なら短くし、取り除き、後回しにすればよい。だがジャンルの約束の壁なら、どれほど速くしても意味はなく、その約束自体をなくすか、なじみのあるものに差し替えなければならない。最初の操作(T5)で半分が漏れるゲームが、ロードを一秒縮めるために何週間も費やしている間、実はユーザーは仮想ジョイスティックという外国語を前に去っていたのかもしれない。ファネルの数字はどの敷居が漏れているかまでしか教えない。なぜ漏れるかを教えるのは、この二重の読み方である。第1章で述べたジャンルの呪いが、十一の敷居の上で具体的な住所を持つのが、まさにここだ。

▶ 自分の画面に当てはめる三つの問い

  1. 私は初回起動の瞬間だけをFTUEと見ていないか。
  2. インストール前の接点(広告・ストア・口コミ)を自分の責任範囲に入れているか。
  3. T0からT2までを設計対象と見ているか。

三つの問いに一つでも「いいえ」があれば、最初の画面を磨く前に、その前段階から描き直す。

では、何を最初に決めるべきか

十一の敷居でファネルを描き直すと、先ほどの一万人のファネルがまったく違って見える。一万人から四千人に減ったのはT1とT2、ストアで見た第一印象と期待の問題である。四千人から三千人に減ったのはT3、インストールしたのに開かなかった進入コストの問題だ。三千人から千五百人に減ったのはT4からT8の間、最初の画面から最初の報酬までのどこかの問題だ。では千五百人から三百人に減ったのは何の問題か。ここで断定してはいけない。千五百人は「チュートリアルを最後まで見た人」であって、最初の面白さ(T8)に到達した人ではない。それこそが第2章の核心だった。したがって、この区間は二つのうち一つである。教えはしたがT8に届かなかったか、面白さは与えたがT10、戻る理由がなかったか。どちらかを分けるには、チュートリアル完了とは別にアハ・モーメント到達を記録しなければならない。その間に挟まるT9、最初の選択とソーシャルも、静かに漏れる場所になり得る。好みを表したり、他人の痕跡を見たりする機会がまったくなければ、戻る理由が一つ丸ごと空いていることになる。このように、区間ごとに修正の取っ手が異なる。

だから最初にすべきことは、自分のゲームの新規流入を十一の敷居に載せ、数字が最も大きく落ちる敷居を一つ見つけることである。すべての敷居を同時に直すことはできない。最も大きく漏れる一か所をふさぐほうが、最初の画面の色を変えるより百倍効果的だ。

仮想のゲームで考えよう。キャラクターのショート動画を集めて会話するゲームで離脱を記録したところ、最初の動画は最後まで見る(最初の認識・視聴は通過)が、最初のキャラクターを収集する段階(T8直前)で半数が離れるとする。すると問題は第一印象ではなく、「見るのは面白いが、集める行動へ移る理由」を与えられなかったことだ。ここでありがちな失敗は、ストアのスクリーンショットをさらに派手にすることだが、漏れはT8なのにT1を直している。敷居を分けて見なければ、こうした無駄を繰り返す。

MEJEアイドンワールドに当てはめるとこうなる。ファンが推しに似たアイドン(子犬)と初めて出会い、連れて帰る瞬間がT8、すなわちアハ・モーメントであり、「自分のアイドンができた」という一度の達成があってこそ、その後のすべてがついてくる。だからアイドンワールドの最初の体験設計は、このT8をできるだけ早く、最も明確にすることに集中する。アイドンを選び、なで、名前をつけるまでの時間(価値到達時間)を短くし、そばに来る瞬間の報酬を大きくする。

最後に、敷居を見る視点を一段引き上げよう。十一の敷居は診断ツールである以前に、並べ替えられる設計変数である。よくできた最初の体験は敷居の順序を変える。プレイアブル広告は最初の操作(T5)と最初の報酬の味(T8)をインストール(T3)より前へ引き寄せる仕掛けであり、Wordleの緑のマスの共有は、自分の最初のソーシャル(T9)を他人の最初の口コミ(T0)へ変える仕掛けだ。スーパーの試食が購入前に味見を置くのと同じ理屈であり、はしごを上から下へ通過させることだけが設計ではない。ファネルで漏れる段をふさぐ質問の次に、もう一つ問おう。私たちはどの敷居を、どの敷居の前へ移せるか。

参考コンテンツ

この章の概念が表れている、他メディアの事例。

一般アプリ

  • 協業メッセンジャーSlackの「2,000件のメッセージ」基準:一つのチームが累計2,000件をやり取りすると「きちんと使った」とみなし、その地点を越えたチームの継続率が非常に高いとされる。
  • TikTok・Spotifyの関心分野選択オンボーディング:最初の画面で関心のあるテーマや好きなアーティストをいくつか選ばせ、情報のない最初のフィードをその選択でシードする。
  • Wordleの一日一問と共有用の緑のマス:毎日同じパズルを一つだけ解かせて24時間の期待を積み、答えを隠した色付きのマス目で結果を自慢させることで、戻る口実と口コミを同時につくる。
  • 登録ファネル分析:訪問・登録・最初の行動・再訪に分け、どの段で漏れているかを個別に見る。

現実の業務手順/心理学

  • スーパーの無料試食:一口味わわせ、購入という最初のコンバージョンまでの距離を短くする。

残りの参考コンテンツは、この章末の「第3章付録」にまとめた(単行本では付録Dにまとめられる)。


設計ノート ▶ 実際にやってみる

自分のゲームの新規流入数を思い浮かべ、次の一文を埋めてみよう。

「私たちのゲームで人が最も大きく漏れる敷居はT( )であり、そこでユーザーは(   )が理由で去る。」

データがなければ推測でもよい。最初の露出(T1)で「何のゲームか見えないから」かもしれず、最初の操作(T5)で「何を押せばいいかわからないから」かもしれない。最初の再訪(T10)で「戻る理由がないから」かもしれない。ゲームを起動する前の局面(T0~T2)はゲーム内ログがなく途方に暮れるように見えるが、代理指標はある。広告を見た人のうちストアへ進んだ割合、ストアページを見た人のうちインストールした割合がT1とT2の体温計になる。どの広告クリエイティブから来たかによって、インストール後の翌日継続率が異なるなら、T2(最初の期待)が本編と食い違う約束をしている兆候だ。ゲーム名の検索量推移はT0(最初の口コミ)の間接的な体温計になる。一か所を特定した瞬間、次に何を直すべきかが決まる。

特定した敷居に、もう一文を加えよう。「その敷居で、ユーザーが知らなくてもよかったはずのゲーマー常識は何か」。漏れる理由が時間や摩擦ではなく、ユーザーが学んだことのないジャンルの約束なら、修正の取っ手は画面速度ではない。その約束をなくすか、なじみのあるものに変えることだ。

一か所を特定できなければ、十一の敷居のどこも直せない。最も大きく落ちる一段から指し示して入る。

一行要約:「最初」は一度ではなく十一回来る。T0の最初の口コミからT10の最初の再訪まで、ゲーム前、最初のセッション、定着という三つの局面に分かれる。FTUEの核心はT1からT8であり、そのうち最初の報酬(T8)のアハ・モーメントが、最初の面白さのゴールラインである。どこが漏れているかは、敷居を分けて見て初めてわかる。 次章:だが、その敷居で私たちがユーザーに与えていると信じる「体験」は、本当に体験なのか。それとも体験の形をした影なのか。ボタンを押すことは体験なのか。


第3章付録:参考コンテンツ集

この一覧は、第3章が提示した道具、すなわち「最初」をT0(最初の口コミ)からT10(最初の再訪)まで十一の敷居に分け、どの段で人が漏れるかを見極めるファネルの読み方を、他メディアの事例で確かめるものである。ビデオゲーム・プラットフォーム、映像・コンテンツ、出版・漫画・音楽、モバイル・アプリ・サービス、オフライン・日常に分けた。各事例について、「ここで働く敷居は何番か、アハ・モーメントはどの行動か、敷居の順序を変えた仕掛けは何か」を、本章のファネル、価値到達時間、敷居の並べ替えの議論と組み合わせて見るとよい。

ビデオゲーム・プラットフォーム

  • Outer Wilds:2019年の作品で、能力値ではなく「理解」が蓄積し、散らばっていた手がかりが一瞬でかみ合う気づきが最初の報酬となる。見るべき点:アハ・モーメントはレベルやアイテムといったシステム報酬ではなく、認知の出来事にもなり得ることと、その瞬間を前倒ししにくいという代償まで見る。
  • Minecraftの最初の夜:日が沈む前に最初のつるはしを作り、最初の隠れ家を築く間に「これはこういうゲームなんだ」へ到達する。見るべき点:昼夜という時間圧力が最初のセッションの目標を自然につくり、システムが価値到達時間を管理する構造を見る。
  • Stardew Valleyの初収穫:種をまき、ゲーム内で数日待ち、最初の作物を収穫する瞬間が明確な最初の達成として残る。見るべき点:アハ・モーメントが最初のセッション内ではなく数日後に来るよう設計された例として、その間を支える小さな報酬が何かを見る。
  • It Takes Two:2021年作の二人専用協力ゲームで、二人が一緒に初めて協力パズルを解いた瞬間に初めて「ゲームの中核価値」を実感できる。見るべき点:アハ・モーメントに他者が必要なゲームでは、最初の進入(T3)に仲間集めという敷居がもう一つ加わることを見る。
  • Steamの2時間返金ポリシー:Steamはプレイ時間2時間未満、購入から14日以内なら理由を問わず返金する方針を公式に運営しており、購入後の最初の2時間が事実上の審査区間になる。見るべき点:最初のセッションがそのまま返金審査になるなら、価値到達時間が売上に直結する変数へ昇格することを見る。

映像・コンテンツ

  • 映画『Save the Cat!』の作法:脚本術書『Save the Cat!』は1ページ目のオープニングイメージでトーンを定め、12ページ前後で事件のきっかけを投げるなど、冒頭10分の構造をページ単位で定める。見るべき点:最初の局面を直感ではなく座標(何ページに何を置くか)で管理するという点で、十一の敷居と同じ発想の作法として読む。
  • ストリーミングの第1話離脱曲線:話数ごとに視聴者が抜けるファネルで、どの回で最も大きく漏れるかが要点になる。見るべき点:「視聴率が低い」ではなく「何話で折れる」と言わなければ修正箇所が見えないことが、敷居単位の診断と同じ語法である。
  • コールドオープン(『Breaking Bad』『Lost』):オープニングクレジット前に事件のただ中へ放り込むティーザーで、チャンネルを変えられる前に視聴者を物語へつなぎ止める。見るべき点:最初の認識(T4)を速めるため、説明区間を丸ごと後ろへ送る順序の並べ替えとして読む。
  • レビュー・エンバーゴ:映画・ゲーム業界はレビュー公開時刻を契約で縛り、最初の口コミ(T0)が解禁される時刻を制御する。一方、発売直前までエンバーゴが続くと、それ自体が悪い兆候と読まれることもあるとされる。見るべき点:ゲームを起動する前の局面(T0~T2)が運ではなく管理される設計対象であることと、統制が逆のシグナルになる副作用まで見る。

出版・漫画・音楽

  • 小説の第一文のフックと第1章離脱:読者が本を閉じる地点は、表紙、最初の一行、最初の章に分かれ、段階ごとに理由が異なる。見るべき点:メディアが違っても離脱は常に段階ごとに起きるため、処方も段階ごとに異なることを見る。
  • 『週刊少年ジャンプ』の読者アンケートと早期連載終了:読者が毎週好きな作品に投票し、その順位で連載の存続が左右され、デビュー後3週でも終了し得るとされる。見るべき点:最初の局面の成績が即座に生死を決める市場で、第1話に資源が集中する構造がどう固まるかを見る。
  • ウェブ小説第1話の「ゴールデンタイム」と爽快な導入:第1話がもどかしいまま終わればすぐ離脱すると考え、冒頭数話のうちに痛快な展開と小さな起承転結を入れて継続読書率を守る作法が定石とされる。見るべき点:最初の報酬(T8)を第1話の中へ引き寄せる圧縮設計として、価値到達時間短縮の出版版である。
  • ストリーミングの30秒ルールと短くなったイントロ:30秒を超えて初めて再生回数とロイヤリティーに計上されるようになると、イントロが1980年代の20秒前後から5秒ほどに縮まり、サビを前へ移す曲が増えたとされる。見るべき点:測定基準一つがコンテンツの形式を変えた事例として、何を測るかが何を作らせるかを決めることを見る。

モバイル・アプリ・サービス

  • プレイアブル広告:インストール前に広告内の小さなステージを直接操作させる広告形式で、最初の操作(T5)と最初の報酬の味(T8)をインストール(T3)より前へ引き寄せる。見るべき点:敷居は固定されたはしごではなく、並べ替え可能な設計変数であるという本章最後の論点を、最も明確に示す。

オフライン・日常

  • 営業パイプラインの段階:リードから契約まで段階別のコンバージョンを見て、どこで最も多く抜けるかを特定する。見るべき点:ファネル思考がデジタル以前から営業管理の基本だったことと、段を分けてこそ責任と処方が分かれることを見る。
  • 自動車の試乗:購入という大きな決定の前に、最初の操作であるハンドルを先に握らせる手順であり、販売店は試乗コースや同乗案内まで標準化して、最初の数分の印象を管理する。見るべき点:スーパーの試食と同じ敷居の並べ替えが、高額商品ではコース設計まで備えた工程になることを見る。
  • マンションのモデルルーム:まだ建てられていない住居の実物大の見本を先に造って見せる分譲慣習で、存在しない商品の第一印象(T1~T2)を実物体験として前倒しする。見るべき点:期待(T2)をつくる装置はそのまま約束となり、本編(実際の入居)が約束と食い違えば紛争として返ってくることまで見る。
  • IKEA効果:自分で組み立てて完成させた物に、より大きな愛着と価値を与える現象が実験で報告されている。見るべき点:自分の手で最初の成果物を完成させてこそ最初の報酬(T8)の達成が大きくなることと、代わりに完成させる自動進行が、かえって報酬を削る可能性を見る。